ほくほく線は、六日町駅と犀潟駅を結ぶ路線です。普通列車のみが田園地帯を走るローカル線の写真が出てくるために”のどかなイメージ”を持ちがちですが、実際に乗ると印象ががらりと変わります。かつて北陸へのメインルートだった頃のお話をしますが、(1)今でもその面影を楽しむことができます。(2)1-2両編成でかっ飛ばし、(3)背面展望を楽しめる。(4)難工事の末に生まれた鍋立山トンネルを通って日本海を目指しましょう。オトクなきっぷとして、ほくほく線の一日乗車券もありますが、JR東日本が発売する企画乗車券のフリーエリアに含まれることが多いのも嬉しい点です。新たに新幹線計画も浮上しています。
ほくほく線とは
ほくほく線は、新潟県内を走る北越急行線の路線名です。
区間は六日町から犀潟(さいがた)までの路線です。
歴史的には越後湯沢と直江津を直線的に結ぶ重要な役割(後述)を果たしていたので、同区間をほくほく線と呼ぶ人もいます。実際にその認識で利用上は困ることはないのでOK。ただし、前後の区間はJR線となりますので、運賃は別々にかかることだけは覚えておきましょう。
独特な列車名は地元での募集によるもの。ほくほくとした温かみのある印象を持ってもらいたいという願いが込められているとか。
最初聞いた時は「えっ!?」と聞きなおしていた路線名も、今ではしっかり馴染んでいます。
もう一度、路線図を見てみてください。
ほくほく線の走る区間には鉄道が走っていませんでした。
ここに鉄路が通るとなったことで地元が歓喜に沸いたと聞いております。
これまで飯山線しか通っていなかった十日町にも新しい鉄道が通り、(東京に近い)越後湯沢まで直接行けることになりました。
ほくほく線のおかげで「大変便利になった」「ほくほく線は偉大なんだ」と、十日町出身で今は天国にいる祖母が何度も言っておりましたので、この場を借りて後世に残させていただきます。
ほくほく線のオトクなきっぷ
ほくほく線はJR線ではなく、北越急行という第三セクターです。
さすがに青春18きっぷは使えませんが、JR線と相性の良い企画乗車券も発売されています。
1日乗車券
ほくほく線が1日乗り放題になる「ほくほくワンデーパス」が発売されています。
おとな1,500円、こども700円で、ほくほく線が乗り放題となります。
発売場所はほくほく線の車内のほか、駅の券売機や直江津駅の窓口など。
なお、ほくほく線は「六日町ー犀潟」に限られます。
JR線区間を利用する場合は別に運賃がかかるので注意しましょう。
週末パス
JR東日本が発売している「週末パス」のエリアにほくほく線が含まれています。
週末パスは多客時を除く土休日に2日間連続で使えるフリーパス。
ほくほく線のほか、えちごトキめき鉄道(一部路線)やしなの鉄道もエリアに含まれるので、同エリアを周遊する旅行を計画している場合はとても使い勝手の良いきっぷになっています。
おとな8,880円、こども2,600円です。
【注意!】
週末パスは利用開始当日に購入することができません。前日までの購入が必須となります。ただし、わざわざ駅に行かなくても「えきねっと」で買うことができます。この場合は前日までに「えきねっと」で購入手続きを済ませておけば、きっぷの受け取りは当日でも大丈夫です。
北海道&東日本パス
期間限定ではありますが、JR東日本とJR北海道の普通列車が利用できる北海道&東日本パスのフリーエリアにほくほく線が含まれています。
青春18きっぷは使えませんが、北海道&東日本パスであれば精算なく通過利用できるのでオトクです。
連絡乗車券
企画乗車券を使わず、通常の乗車券を使う場合でも、ちょっとオトクな計算方法が適用されています。
JR線ーほくほく線ーJR線という乗り方になりますが、JR線区間の運賃は、それぞれの区間の営業キロを足し合わせて「1乗車」として計算されます。JRに対する初乗りは1回のみで、これにほくほく線区間の運賃が単純に加算されます。
これを通過連絡運輸といいます。
必ずしも乗車券は越後湯沢発着にする必要はありません。
東京発着でも、通過連絡運輸による乗車券を発券することができます。101km以上の乗車券であれば途中下車もできます。
JR線の乗車券は距離が長くなるほどキロ単価が安くなりますので、通しで買うのが賢いでしょう。
ほくほく線の役割
もとは東京ー北陸のメインルート
鉄道未開拓の地、とはいえ…
上記の区間を見ただけでは「なんでわざわざ作ったの?」と思う人もいるかもしれません。
実際に、国鉄再建に向けた流れで建設がストップされた時期もありましたが、第三セクターとして建設が再開されて全通を果たしています。
でも、それには理由があります。
実はほくほく線、開業後は、地元輸送のほかに「首都圏と北陸を結ぶメインルート」として機能していました。
具体的には、上越新幹線の越後湯沢駅を起点に、ほくほく線経由の特急「はくたか」が富山・金沢・福井方面に運転され、多くの利用がありました。
ほくほく線の区間では、在来線最速となる160km/h運転が実施されており、北陸方面への速達性にも寄与していたそうです。
今では地元の輸送がメイン
北陸新幹線が開業した今では、メインルートとしての立場は離れています。
現在、ほくほく線を走るのは普通列車のみ。
しかも、その普通列車は1両または2両編成での運転となっていて、専らローカル線の雰囲気を醸し出しています。
とはいえ、この車両は、性能面だけで言えば110km/hまで出すことができます。
かつて特急「はくたか」が160km/hで走っていたころには、その俊足を生かして逃げ切っていたのです。
北陸新幹線開業後も、かつての特急「はくたか」並みの停車駅で走り続ける超快速「スノーラビット」を運行し、東京ー直江津間の輸送において北陸新幹線に挑戦状を叩き付けたこともありましたが、採算性を考えて路線自体の最高速度を落とし、同時にスノーラビットも廃止となりました。
いまでは95km/hまでしか出さないようですが、短編成が故にスピード感のある走りを楽しむことができます。
下記に示すような「直線的な線路」を飛ばす姿を、往年の特急「はくたか」に重ねて乗ることができるでしょう。
独特な車窓が流れます
背面展望を楽しめる
ほくほく線はワンマン運転を行っています。
後方部分は一部が開放されていて、背面展望を思う存分楽しめます。
以下の写真は背面展望を撮影したものになります。
(みなさんもご乗車の際は最後尾で景色を楽しみましょう)
JR区間を離れると「本気」を出す
六日町ー犀潟間がほくほく線で、その前後がJR線であることは前述の通り。
直江津から乗車すると、しばらくは信越本線を走りますが…
犀潟を過ぎると、何やら様子がおかしくなってきます。
どこか異世界に連れて行かれそうな傾斜ののちに、
えっ…
人はこれを「ジェットコースター」とでも呼ぶのかもしれません。
やけに直線的
地図を見れば異変に気付いていただけると思います。
両駅間をほぼ直線でぶち抜いているほくほく線。
「曲がったことが嫌いな田中角栄の力なのか?」と思うのも無理はありません。
地方のローカル線とは考えられない線形ですが、これも「北陸への最速ルートを確立する」ことに主眼を置いていた歴史を考えれば納得がいくでしょう。
高架とトンネルの連続
高架の上を走るほくほく線の写真を見たことのある人は多いでしょう。
だからこそ「田園風景を走るローカル線」というイメージを持っている人が多いと思います。
しかし、実際には路線の60%以上がトンネルの中を走るほくほく線。
トンネルを抜けたところに駅を設置しているというケースも多いです。
しかも、それらのトンネルがとことん長大です。
のちに示す「土木建設の歴史に残る難工事」と言われるトンネルもほくほく線にあります。
ほくほく線の見どころ
「ゆめぞら」
ほくほく線にはトンネルが多いことはお伝えした通りです。
これを逆手にとって、トンネル内の車内で映像を映し出す列車「ゆめぞら」が走っています。
全5か所のトンネル内で、それぞれ異なる映像を上映してくれます。
日曜日限定ですが、ご予定が合えばぜひ利用してみてください。
【ゆめぞら】時刻表
越後湯沢0914→直江津1043
直江津1121→越後湯沢1253
越後湯沢1326→直江津1456
直江津1507→越後湯沢1655
※日曜日のみ上映
※赤いラインの入った車両のみ上映
美佐島駅
周辺に鉄道ファンがいたら「ほくほく線の見どころ教えて!」と聞いてみてください。
おそらく10人中9人はこれを言うのではないかと思います。
「美佐島駅」と。
美佐島駅は、魚沼丘陵駅としんざ駅の間にある赤倉トンネル内にあります。
トンネルの壁に貼り付けられるようにして設置されたプラットホームと待合室の間には頑丈なドアが設置され、トンネル内を列車が走行した際の風圧から守っています。
特急「はくたか」が160km/h運転していたころに比べると見劣りしてしまうかもしれませんが、いまでもトンネル内を列車が走行している時の風圧は感じることができます。
トンネル内の駅とはいえ、土合駅とは異なり、地下2~3階程度の深さですから、地上まで出ても体力を著しく奪われるようなことはありません。
地下だけでなく、地上の待合室も完備されていますから、ぜひ行ってみてください。
鍋立山トンネル
みなさん、「難工事だったトンネル」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
「青函トンネル?」…いやいや。
世界屈指の難工事だと言われたトンネルは、ほくほく線の「まつだいーほくほく大島」間にあります。
その名は「鍋立山トンネル」です。
世界の「Nabetachi-yama」で通じるそうです。
歴史に残る難工事区間「鍋立山トンネルの中工区」を掘り進めたのは西松建設さん。
このエリアを掘り進めるために、立坑と呼ばれる縦のトンネルを掘ったときに
メタンガスによる大爆発
が発生するも、これは山からの軽いご挨拶にすぎませんでした。
トンネルを東西に掘り進める中で悩まされたのが泥火山と呼ばれる軟弱な地盤。
「豆腐の山にトンネルを掘っている」
との表現が的確と言われるほど、絶望的な地質だったそうです。
途中、財政面で工事が凍結された時期がありましたが、工事再開後の入札を経て同区間を請け負ったのも西松建設さん。誰もやりたくないはずの工事を再度受け持つとは、もはや意地だったのかもしれません。
最新鋭のトンネルボーリングマシーンを製作したうえで「スピード勝負」で掘り進め、途中までは順調だったのですが…
これが鍋立山の逆鱗に触れたのか、これまでとはケタ違いに強い土圧に負けて戻され、挙句の果てにマシーンを破壊されてしまう。
なんと、1年間掘り進めた結果「マイナス35メートル進んだ」という聞いたことのない進捗を記録してしまいます。
その後、土木技術の博覧会ともいわれるほど多くの手法が試された末、「豆腐の山」にセメント系の注入材を大量に投与して地盤を固める正攻法を取り、何とか貫通する頃には22年の歳月が過ぎていました。
可能であればトンネル内の形状の違いに注目してください。目を凝らしてみていると、周囲と異なる区間がうっすらと見えるかもしれません。難工事区間は、最も耐圧性に優れると言われている「卵型」の断面をしているそうですよ。
さすがに分からない!という人(=私もそうです)でも、トンネル内にある信号場は見分けられると思います。直江津行きに乗車の場合、この信号場を過ぎてからの区間が世界屈指の難工事だった場所になります。
このトンネルに上記のような苦労があったことを知っていれば涙なしには通れないでしょう。
思い思いに過ごしてみてください。
新たな新幹線計画が浮上
かつて北陸方面へのメインルートを担ったほくほく線は、北陸新幹線の開業とともにその役目を終え、今では最小で1両編成での運行となっています。
しかし、ほくほく線の建設には多大な費用と苦労があり、それを考えると宝の持ち腐れ状態にも見えますよね。
そんなとき…
ここにきて、ほくほく線に(ミニ)新幹線を通すという構想が浮上しています。
これはほくほく線の活性化というよりも、同じ新潟県内なのに上越新幹線と北陸新幹線が繋がっていないことに対する東西の交通網活性化が目的のようです。
ほくほく線を標準軌(または三線軌条)にしたり、各トンネルを新幹線が通れる幅に改良したりするなどの対策が必要になりますが、もともと高速運転に耐えうる設備を持っているほくほく線にはもってこいの計画なのかもしれません。
既存のトンネルを活かすことが可能なルート取りで、あの鍋立山トンネルも活用されることでしょう。
160km/h運転が復活することも期待できます。
もちろん、この計画が決まったわけではありません。このほかにも信越本線を高速化する案もあるようですから、今後の動きに注目です。
まとめ
ほくほく線に乗車し、以下の知見を得ました。
- 六日町ー犀潟間を走る北越急行の路線
- JRの企画乗車券との相性がいい
- 全線のうち6割以上がトンネルの中
- かつての北陸へのメインルート
- 今では地域輸送の役割を果たす
- トンネル内の美佐島駅と難工事の鍋立山トンネルが有名
- 「ゆめぞら」に乗りたい
トンネルが特徴の路線として「上越線」も見逃せません。水上→上越線→越後湯沢→ほくほく線→直江津と進むのが、山岳トンネル好きの鉄道ファンが進むべき鉄板ルートになっています。
ではまた。