「おかえり上越」は、えちごトキめき鉄道の「妙高はねうまライン」を走る定期列車です。この列車は、北陸新幹線との接続を取る新幹線リレー号のような位置づけで、普通列車と同様に運賃のみで利用できます。中でも「おかえり上越3号」は特急型車両で運行されており、少しの時間ですが快適な旅を提供しています。この列車の運行の背景には、乗客への着席サービスだけではない、経費削減を踏まえた工夫があります。上越妙高発着で「試しのちょい乗り」をしてみた筆者が、乗車時の様子をお届けします。また、同様のちょい乗りを試みる人へ向けて「戻りの列車」の注意点を共有しています。
えちごトキめき鉄道とは
えちごトキめき鉄道は、新潟県内のローカル線を運行する鉄道会社です。
親しみを込めて「トキ鉄」と呼ばれることもあります。
一人称がトキ鉄であることもあります。
北陸新幹線の金沢延伸にともない、JRから経営分離された旧信越本線と旧北陸本線は第三セクターとして再出発。
妙高高原ー直江津間は妙高はねうまラインとして、直江津ー市振間は日本海ひすいラインとして、えちごトキめき鉄道の手により運行が継続されています。
新幹線の開業によって切り離された並行在来線の未来は厳しい、というのはどこも同じ。
しかし、地域に密着し、沿線の魅力を最大限に取り入れながら、生き残り、いや、これからの発展を賭けた創意工夫を惜しみませんし、これがうまくいっているケースもよく見られます。
えちごトキめき鉄道もそのひとつ。
鉄道ファンや旅行ファンの心を掴む取り組みを次々に取り入れ、奮闘しています。
例えば、雪月花という奇抜な観光列車を取り入れてセレブリティーな鉄道の旅を提供したかと思えば、国鉄型の急行列車を走らせて鉄道ファンを呼び寄せる。なんてこともしています。
普通列車であっても、二本木のスイッチバックや妙高高原付近で見られる雄大な背面車窓を間近で見たい鉄道ファンの心を読んで、車掌室の一部を開放してくれたりと…臨機応変にできる限りのサービスをしてくれたり。
多彩な利用者の目線に立ったサービスで心を掴んでくれています。
さて、ここから先も利用者目線に立ったサービスの話が続くのですが、少々地味に感じるかもしれません。
遠方の鉄道ファンにはあまりご縁がないかもしれませんが、上越エリアに住む利用者にはとても嬉しい列車があります。
それが、今回ご紹介する「おかえり上越」という列車です。
おかえり上越とは
おかえり上越とは、妙高はねうまラインの妙高高原・新井→上越妙高→直江津間を夜間に運行する列車の愛称です。
おかえり上越1号、2号、3号が運行されています。
運行区間中の全駅に停車する普通列車で、所要時間が短いわけではありません。もちろん、運賃以外に特別な料金は必要ありません。
う~ん、じゃあ、
わざわざ「おかえり上越」なんて名前をつけるの、なぁぜなぁぜ?
ってなりますよね。
その答えは「列車本数が限られる夜間において、特別な努力をして、北陸新幹線からの接続をとった」からなのだと私は思っています。
「おかえり上越」は、北陸新幹線で上越妙高駅まで帰ってきた人たちを、高田・直江津方面へ円滑に運ぶために設定された、いわば新幹線リレー号のような列車なのです。
1号:はくたか573号(20:13着)からの接続(20:27発)
2号:はくたか575号(21:12着)からの接続(21:31発)
3号:はくたか577号(22:14着)からの接続(22:27発)
※金沢方面からのはくたか号からも接続を受けています
限られた予算のなかで、えちごトキめき鉄道が地元利用者の利便を図ろうと知恵を絞った、努力の結晶。
列車名くらいつけさせてください!ついでに列車でも便利に帰れることをアピールさせてください!って感じなのでしょう。
おかえり3号は特急型車両
特に知恵を絞ったと言われているのは「おかえり上越3号」です。
この列車は、JR東日本が所有するE653系という特急型車両が使われています。
E653系は、特急「しらゆき」にも使用されている、普通列車として使うにはあまりにもったいない車両です。
で、なぜ特急型車両を使うのかというと、「経費を削減するため」なのです。
…はっ!?
いや、間違えていません。
この車両を使うことで、経費の増大を最小限に抑えながら本数を増やすことができるのです。
というのも、もともと新井行きの最終特急「しらゆき8号」が終点まで運行されたあと、当該車両は、直江津駅まで返却のために回送されていました。
おかえり上越3号は、上記の返却回送に着目し、回送として空気を運ぶのではなく、お客さんを乗せることのできる営業列車として戻すことにしたのです。
経営が苦しい中での英断ですよね。
おかえり上越3号に乗ってみた
乗車計画
ある日、上越妙高に滞在していたので、おかえり上越3号に乗車してみました。
とはいっても、その日のうちに上越妙高に戻ってこないといけません。
直江津→上越妙高の終電が早いため、終点(直江津)まで行ってしまうと、自分自身が「おかえりできない」ことになります。
従って、おかえり上越3号には1駅(上越妙高→南高田)しか乗れませんでした。ただ、これでも様子をうかがうことはできると考えたのです。
上越妙高22:27→22:30南高田22:40→22:44上越妙高
※下線部分がおかえり上越3号
時刻表を見れば「高田駅まで行ける」ことはお分かりいただけると思いますが、南高田で折り返しています。これは、万が一にでも列車に遅れが生じた場合、乗り継げないと悲惨な目に合うので、余裕を見たのです。路線が単線であるがゆえに、おかえり上越3号が遅れたら、対向の最終列車も必ず遅れてくれるので、帰らなければならない立場では安心できます。
はくたか577号からの下車客
土曜日の夜。
北陸新幹線の改札前で下り最終新幹線からの到着客を待っていると、(少々オーバーかもしれませんが)ざっと100人近くの降車がありました。
予想以上に多くてびっくりしましたが、それらの乗客は、東口と西口で二手に分かれ、やや東口が多い印象。少ない方の西口に向かった乗客のうちの1~2割がトキ鉄のきっぷを買って、足早にホームへ向かっていました。
おかえり上越3号
20人弱の乗客とともに、おかえり上越3号に乗車します。
単に「普通|直江津」と表示されていますが、車両は確かに…
E653系であります。これは贅沢ですね。
そしてびっくりしたことが1つ。それが…
返却回送が主な目的のはずの間合い運用にもかかわらず、座席の向きが進行方向を向いていたこと。
何気ないことかもしれませんが、手間をかけていますよね。
ちなみに、車両は流用しているからいいとしても、この列車には車掌も乗務していますから、人員は+1名かかっていることになります。
トキ鉄、あっぱれでございます。
南高田での折り返し
南高田駅は無人駅です。
私は週末パスを利用していたため素通りしましたが、乗車券を使用しているのであれば運賃箱に入れ、改めて折り返しの乗車券を買う必要があります。
折り返しの10分間には、(少々せわしなくなりますが)ローソンに立ち寄ることができます。
私はここで夜食を買い込み、上越妙高駅に戻りました。
なお、ローソンは踏切の反対側にあります。
ギリギリを攻めると遮断機が下りてしまい、乗れない可能性が出てきますので気を付けましょう。
まとめ
おかえり上越3号に乗車し、以下の知見を得ました。
- 「おかえり上越」はトキ鉄「妙高はねうまライン」を走る定期列車
- 北陸新幹線との接続を取る「新幹線リレー号」のような位置づけ
- おかえり上越3号は特急型車両で運転
- おかえり上越3号は経費を抑える発想で実現した間合い運用
- 上越妙高発着「試しのちょい乗り」は戻りの列車に注意して
トキ鉄「妙高はねうまライン」の前身である信越本線に関する記事も書いています。北陸新幹線の開業によって路線が分断されていますが、路線を引き継いだそれぞれの会社において元気に運行が続いています。
直江津駅で乗り換えることができる「ほくほく線」も北陸新幹線開業の影響を大いに受けた路線です。こちらは田園地帯を高架から眺めたと思ったら、長大なトンネルを駆け抜けていく、とてもユニークな路線です。「豆腐の山を掘り当てた」トンネルの難工事でも有名です。
何もないとは言わせない!開業当時は寂しかった上越妙高駅周辺も、徐々に活気が出てきました。今ではチェーン系のホテルが立ち並び、大戸屋やコメダ珈琲の他、天然温泉の施設まで登場しています。
えちごトキめき鉄道
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ではまた。