奥羽本線は、福島県福島駅から青森県青森駅を結ぶ全長485kmの長大な路線ですが、なぜか「その長さを感じさせない」不思議な路線になっています。その理由は、(1)福島ー新庄間は山形新幹線「つばさ」が通る南東北の大幹線、(2)新庄ー大曲間は県境越えのローカル路線、(3)大曲ー秋田間は秋田新幹線「こまち」が通る北東北の大幹線、(4)秋田ー青森間は観光列車と特急列車が発着する日本海縦貫線をなしているなど、同じ路線内で全く異なる顔を見せるためでしょう。新幹線の山越えから、全国的にも珍しい三線軌条が見られるなど、鉄道旅行には見逃せない点がたっぷりありますが、今となっては全線を直通して走ることはできなくなりました。本記事では、そんな不思議な「奥羽本線」に焦点を当て、各区間ごとの特徴を探ってみたいと思います。
奥羽本線とは
福島~青森間の路線です
さぁ、まずは頭の体操です。
奥羽本線の区間をしっかり押さえましょう。
そこそこ鉄道に詳しそうな人に以下のクイズを出してみてください。
【問題】
奥羽本線の区間(起点と終点)を答えよ。
おそらく多くの人は
「…え~っとねぇ。福島から…秋っ…青森!」
って答えると思います。
結論として「福島から青森で正解」ですが、これを3秒以内に即答できたら正真正銘の”本物”でしょう。
奥羽本線は、福島県福島駅から青森県青森駅を結ぶ、全長485kmの路線です。
これは反射的には答えられない人が多いと思います。
…って私だけですかね。だったらすみませんが、でも納得してくれる人が多いはず。
区間によって全く異なる顔を見せます
では、なぜ即答できないのか…
それは、区間によって全く異なる顔を見せるからではないでしょうか?
同じ路線内で景色が目まぐるしく変わるのは奥羽本線に限ったことではありませんが、この路線は「他路線との結びつき」が全く異なるうえ、全線を直通して走る列車は1本もない(後に詳述)ので、まともに考え始めると混乱の極みでしょう。
もはや4つに分断されているといっても過言ではないほど、全く異なる性格の列車が走っています。
福島ー新庄間では、奥羽本線の在来線特急列車として山形新幹線「つばさ」が運行されているほか、在来線にも「山形線」という愛称がついています。
新庄ー大曲間では、一切特急が走らない山間ののどかなローカル線となりますが、
大曲ー秋田間では、福島駅で分かれたはずの秋田新幹線「こまち」が突然横から現れて、我が物顔で直通運転してきます。
秋田ー青森間では、特急「つがる」が運行されているほか、羽越本線と合わせて日本海縦貫線の一部をなし、貨物の大動脈ともなります。
目まぐるしく姿を変える奥羽本線は、まるで「別路線」のように見えますが、あくまで奥羽本線は奥羽本線。福島ー青森間の全線が奥羽本線として健在しているのです。
奥羽本線は「全線直通できません」
みなさんご存じの通り、在来線と新幹線では線路の幅が異なります。
- 在来線:狭軌(幅が狭い)
- 新幹線:標準軌(幅が広い)
奥羽本線には東北新幹線からの「つばさ」や「こまち」が直通運転してきます。
「こまち」が直通運転してくる大曲ー秋田間は、標準軌と狭軌をそれぞれ敷いて、どちらの列車も通れるようになっていますが、「つばさ」が走る福島ー新庄間は、全列車が標準軌として走っており、狭軌の線路はありません。
在来線の車両は、標準軌対応型に”魔改造”して走っています。
このように、南北で事情が異なる奥羽本線では「新庄」を境に直通運転できない構造になってしまいました。新庄駅には、両線をぶった切るような歩行者通路が敷かれています。
どこでも走れる豪華列車「四季島」であっても、さすがに福島ー新庄間には乗り入れることができず、羽越本線を南下するか、北上線や陸羽西線などを経由して山を抜けているようです。
奥羽本線【福島ー新庄】の見どころ
福島ー新庄間の見どころは、福島ー米沢間の山越え区間です。
奥羽本線の福島ー新庄間は、山形線と言われています。
この区間の主役は「山形新幹線」で、福島駅では新幹線ホーム14番線から発車し、すぐに東北新幹線と分かれて山に向かいます。
新幹線とはいうものの、実態は在来線の特急列車です。
福島ー米沢間は「山形新幹線」としては最も乗車率の高い区間となりますが、普通列車の本数は極端に少なくなることで有名です。
渓谷の中を進んでいきますが、板谷駅などではかつてのスイッチバックの名残を垣間見ることができます。
米沢ー山形ー新庄間は、平地を進んでいきます。
県庁所在地の山形を中心に、市街地が並びます。在来線の本数も多くなりますが、前述のように、JRの普通列車としては規格外の、標準軌に対応した「山形線専用の普通列車」が走っています。
将棋の町の天童も同区間内にあります。
奥羽本線【新庄ー大曲】の見どころ
福島ー新庄間の見どころは、新庄ー湯沢間の山越え区間です。
新庄ー大曲間は、山形県と秋田県の県境をまたがる区間となります。
単線区間と複線区間が混在しますが、列車の本数は少なめ。
701系という列車が充当されています。
「及位」は「のぞき」と読みます。この駅は山形県内で最北となります。この先は秋田県。
県境はトンネルの中になります。
山奥に入ったかと思えば、大きな空が迎えてくれたり、
単調なように見えて全く飽きない、スマホを仕舞って「外をぼーっと見ていたい」エリアとなります。
なお、横手の付近までくると再び平地となり、乗客の乗降も活発になってきます。需要に合わせて、秋田ー横手・湯沢止まりの”山を越えない”列車も設定されています。
横手駅は国道13号線にほど近く、駅から見える範囲に「マック」「スタバ」「丸亀製麺」「快活CLUB」と、何でもありますから便利です。もし秋田から新庄に向かう場合で、新庄行きの前に先行列車があれば、横手まで先回りして時間調整するのもアリでしょうね。
奥羽本線【大曲ー秋田】の見どころ
大曲ー秋田間の見どころは、神宮寺ー峰吉川間の三線軌条です。
大曲に着くと、福島で分かれたはずの秋田新幹線と再会することになります。
秋田新幹線と言えば、盛岡と秋田を結ぶ特急列車ですが、大曲駅で進行方向が変わるため、どんなに速達型の列車であっても絶対に停車する駅となっています。
また、この区間では山形新幹線とは異なり、在来線は狭軌のまま走ります。在来線と新幹線で別々の線路を走るため、在来線単線+新幹線単線という運用になっています。
しかし、それでは新幹線の運転本数に限界がきてしまいますよね。
そこで、一部区間を在来線でも新幹線でも走れるような構造(在来線単線+新幹線複線)にしました。
どうやったかというと、狭軌と標準軌を兼ね備えた「線路3本構造」にしたのです。
このような構造を“三線軌条”といいます。
全国的にも珍しい構造で、さらにこれを普通列車から間近で見れる区間というのはほとんどありませんから、非常に貴重です。
この不思議な線路を見ることができるのは「神宮寺ー峰吉川」の2駅間のみですので、お見逃しなく。
奥羽本線【秋田ー青森】の見どころ
秋田ー青森間の見どころは、特急から観光列車まで取り揃えた多彩な列車たちです。
秋田から青森までの区間では、八郎潟・(東)能代・鷹ノ巣・大館などを通り、青森県第二の都市ともいわれる弘前も経由して、新青森・青森に至ります。
同区間は国道7号線(新潟方面に向かう道路)沿いを走っていて、日本海縦貫線の一部として機能。歴史上の特急列車を見ても、他の奥羽本線よりも羽越本線とのつながりが強い区間となります。つい最近まで、数々の寝台特急が走り抜けた区間でもあります。
今でも特急「つがる」が両都市間を運行し、都市間の移動客だけでなく、新青森からの長距離利用客の需要にもこたえています。
八郎潟のすぐ横を走る時には、遠くに「なまはげの生まれ故郷」である男鹿の山々を見ることができます。
山間の区間ではトンネルが多くなりますが、湯の沢温泉や大鰐温泉への玄関口ともなります。
少し距離はありますが、弘前からは十和田湖方面に抜けることもできます。
五能線経由で景色を楽しめるクルーズトレイン「リゾートしらかみ」も、肝心なところ(都市部へのアプローチ)では奥羽本線の力を借りて運行されています。
新青森駅では東北新幹線と接続。新幹線が乗り入れることのできなかった青森駅までの1駅は、奥羽本線にとって最後の頑張りどころ。区間列車を多数運行している他、特急列車の自由席を運賃のみで乗れるように開放し、輸送力増強に努めています。
奥羽本線の普通列車は「701系」が主役
奥羽本線の普通列車は、主に701系が活躍しています。
この列車の車内はオールロングシートとなっていて、残念ながら旅情のかけらもないと言われることが多く、特に鉄道ファンからは敬遠されているようです。
しかし、この列車がワンマン運転の時、最後尾部分は開放されていることがあります。
この場合、一番後ろの窓のところまで合法的に立ち入ることができますので、間近で背面展望をお楽しみいただけます。
701系であれば、前面展望よりも背面展望の方が迫力あって楽しめるでしょう。
ぜひ、701系だからと言ってガッカリせずに、特徴を生かした楽しい鉄道旅行を。
まとめ
奥羽本線に着目し、以下の知見を得ました。
- 奥羽本線は、福島~青森間を結びます
- 福島~新庄間では、山形新幹線が主役です
- 新庄~大曲間は、山間を進むローカル路線です
- 大曲~秋田間は、秋田新幹線と再会します
- 秋田~青森間は、多彩な列車が運行します
多くの顔を見せる奥羽本線。乗り通す機会は少ないかもしれませんが、山形新幹線や秋田新幹線に乗車した際には、「そういえばここ奥羽本線だったんだよなぁ」と思い返してみてはいかがでしょうか。
山形新幹線に関しては、下記でおすすめ座席などをご紹介しています。時間帯にもよりますが、個人的にはA席がおすすめです。
リゾートしらかみに関しては、下記で乗車時の様子をご紹介しています。絶対的なオススメは海側A席ですが、2回目以降はD席にも乗ってみましょう。車内から見える岩木山が美しいですよ。
秋田新幹線に関しては、下記でおすすめ座席などをご紹介しています。奥羽本線からは外れますが、田沢湖~雫石間の峠越えが見どころです。
新青森駅に関しては、下記で周辺情報などをご紹介しています。新青森駅周辺は何もないとよく言われますが、少なくとも「何もない」は言い過ぎでしょう。徒歩エリア内に「はま寿司」があり、私は常連です。笑
ではまた。