東海道線や常磐線、房総方面の特急列車が続々と東京駅に乗り入れるなか、中央線の特急は頑なに新宿発着を貫いています。通勤列車は東京発着なのに、ほとんどの特急は新宿発着…なぜ特急も全列車東京まで行かないのか。正確には「行かない」のではなく、東京駅の構造上の問題で「行けない」のですが、その理由は東京駅の中央線ホームに行っていただければ分かってもらえるでしょう。この記事では、皆様の代わりに東京駅の中央線ホームでたそがれてみた筆者が、中央線の特急が新宿始発となってしまう理由を一般利用者に向けて優しく書いています。
中央線特急「あずさ」「かいじ」
特急「あずさ」と「かいじ」は、主に新宿から甲府・松本方面を中央線経由で結ぶ特急列車です。
富士急行線に入る「富士回遊」も中央線特急に分類されます。
かつては「スーパーあずさ」という列車も存在しましたが、車両の統一により「あずさ」に集約されています。
新幹線の通らない区間ですが、ライバルの高速バスに負けじと、様々な技術を駆使してカーブの多い区間を高速運転しています。
ターミナルとなる新宿駅には、特急専用のホームも用意されていて(のちに重要)、中央線方面の特急列車の運行に力を入れていることが伝わってきます。
車両はE353系と呼ばれる形式で、車内はとても快適。
さて、今週末は中央線特急でお出かけしてみようかなと思ったところで、
繰り返します。
特急「あずさ」と「かいじ」は、主に新宿から甲府・松本方面を結ぶ中央線の特急列車です。
主に新宿から甲府・松本方面を…
主に新宿から…
新宿から…
新j…
…。
…お~い!!
東京まで走ってくれ!!
東京駅発着になれば、新幹線との乗り換えが劇的に便利になるのに…
通勤列車は東京駅発着なのに…
なんで特急は東京まで行かないのか。
やる気あんのか??
あぁ(↑)?
一部特急列車は東京発着です
…と怒りたくなる気持ちはわかりますし、現に私も何回かため息をつきながら新宿駅での乗り換えをしています。
しかし、そんな中央線の特急列車も、ごく一部のみ、東京駅発着便が存在します。
実際に7本(土休日)もの特急列車が東京駅から発車していて、平日であれば短距離の通勤特急も東京駅発着便として加わります。
地味な存在ながら、東京駅を発着する特急列車も存在することを覚えておきましょう…
とはいえ…
東京駅をその日最初に発車する特急列車は、15時15分発。
もう夕方です。
やはり、特急列車は新宿発着が主流であることに間違いはないですよね。
中央線新宿駅は「余裕のある造り」
まずは、東京駅のことを一旦おいておき、新宿駅に着目してみましょう。
新宿駅は世界一の乗降客数を誇る大きな拠点駅ですが、古くから中央線方面のターミナル駅としても機能していて、ホームの数も”特別優遇”されています。
中央線(快速)が各方面ごとに1面2線ずつあり、一方の乗り場で乗客の乗降扱いをしている間に、他方の乗り場で先行列車が発車させつつ後続列車を入線させます。
また、特急列車専用のホームも1面2線用意されていて、新宿で折り返す特急列車の車内整備なども行われています。
忙しいながらも、包容力のある新宿駅。車両捌きも余裕をもって行うことができます。
中央線東京駅は「非常に忙しい」
次に、今度は特急列車のことを一旦置いておき、東京駅の通勤列車に着目してみましょう。
ある週末の中央線ホーム。
1面2線の手狭なホームで、次から次へと電車が折り返していきます。
19:02発の八王子行きが発車を待っていますが、19:04発の高尾行きとなる東京終着の電車に数十秒の遅れが出ているようです。
平面交差のポイントを渡ることができませんので…
その結果、発車時刻まであと9秒だというのに、駅を出ることができません。
その106秒後の様子が上記。反対側に列車が到着すると同時に発車メロディーが鳴り響き、さっさとドアを閉めて発車していきます。
そのわずか63秒後には、到着したばかりの折り返し電車に対しても出発信号が灯り、続けて発車していきました…
折り返しに要した時間は、長く見積もっても2分はかかっていないと思います。
本当に忙しいんですよ…中央線東京駅って。
- 新宿駅のような特急専用ホームはありません
- 折り返し用の引き上げ線(車庫のようなもの)もありません
- のんびりしている余裕もありません
東京駅に着いたらすぐに新宿方面へ引き返す。
円滑に進めないと、後続の東京行き電車が詰まってしまいます。
終点に到着するとき、オーバーランを防ぐために速度を十分落として進入するのが一般的ですが、中央線の場合は進入時のスピードを少しでも上げるために線路に余裕を持たせているとかいないとか…
北陸新幹線建設の煽りを受けて「登り勾配+高架ホーム」になってしまったことも、スピードアップの面では功を奏しているとかいないとか…
とりあえずいろいろ工夫を重ねているウワサはありますが、これにも限界はあります。
特急列車にとって「東京駅発着が難しい」理由
中央線の東京駅は忙しい。
それでも通勤列車であれば進行方向を変えるだけですが、特急列車にとっては致命的なのです。
特急列車の折り返しには「時間がかかります」
中央線の特急列車に限らず、座席の向きが進行方向に向いている優等列車は、終着・始発駅において車内整備が必要です。
座席の向きを回転させて、忘れ物がないかをチェックしつつ、前の人が残してしまったごみの処理や、座席に汚れがないかなどの確認もします。
その作業を超高速で行うことから、新幹線において「奇跡の7分間」と取り上げられることもありました。
車内整備を7分間で仕上げるのは神業なのですが…その神業をもってしても7分間はかかってしまう、とも言えます。
これがネックになってしまったのが中央線東京駅のケースです。
東京駅ホームでは「車内整備できません」
お察しのとおり、中央線東京駅のホームでは「奇跡の7分間」のための「7分間」を確保することはできません。
東京駅に到着した特急列車を、東京駅で車内整備して、東京始発の特急列車として運行することはできません。
ではどうしているのか。
その答えは冒頭の写真にあります。
通勤列車の合間を縫って走ってきたこの車両…
よく見てください。
既に車内整備を完璧に終えている状態で、回送列車として入線してきているのが分かります。
東京駅着の特急車両に、お客さんは乗せていません。
というより、乗せたくても乗せることはできません。
この前の運用は新宿止まりの特急列車として運転されていて、新宿駅でお客さんを全員降ろして整備をしています。
そののち、東京駅から特急に乗りたいというお客さんのわがままを叶えるために、わざわざ東京駅まで回送してきているのです。
東京駅で整備をして折り返す特急列車は、1日を通しても1本も設定されていないのです。
いや、設定したくてもできないのです。
頑張って東京まで来てくれる効果
手間もコストもかかる中央線特急の東京発着便。
もはや「なんで東京まで行かねぇんだ!」などと叫びたくなる気持ちはどこかに飛んで行っちゃったと思いますが…
では逆に、なぜここまでして東京発着便を設定してくれているのでしょうか?
おそらくですが、JRの立場でいえば「中央線特急最強のライバル“高速バス”に対して存在感を示すため」ではないかと思います。新宿ー松本間の高速バスは30-60分に1本のペースで頻発していて、特急あずさよりも安価(3,300円~)で利用できます。バスタ新宿を発着する高速バスと真っ向から勝負するのではなく、利便性の面で少しでも優位に立ちたいという考えがあるのかもしれません。
また、新幹線との乗り継ぎ利便性を向上させる観点でも心強いですよね。新宿発着の場合、東京ー新宿間を通勤列車で移動しなければなりませんし、新宿駅での乗り換えもホームが変わります。
京葉線に乗り継いでディズニーや幕張メッセに行こうとしている人にも便利です。
個人的には、東京駅で特急「ひたち」との乗り換えができるようになるのも便利です。
…と、もはや”便利”が止まりません。
このように、多少無理をしてでも東京駅発着便を設定することで、格段に利便性が向上する利用客もいるのです。
ちょっとわがままですが、これからも走り続けてほしいですね。
まとめ
中央線の特急列車が全列車東京駅発着とするのは難しいです。その理由について、以下の知見を得ました。
- 中央線の特急列車は、主に新宿発着で運転されています
- ごく一部の列車は東京駅発着で運転されています
- 全列車東京駅発着とすることは、設備上難しいです
- 東京駅に乗り入れる場合は、片道は回送となります
東京駅発着の中央線特急列車。
本数は少ないですが、その運行の裏には決して軽視できない努力があります。
機会があれば、ありがたく活用させていただきましょう。
ではまた。