E501系10両編成は、水戸ーいわき間をメインに活躍する通勤電車。断片的にしか常磐線を知らない人が利用すると「田舎で10両が走るなんて空気輸送」と言われてしまいますが、決して無駄な存在ではありません。水戸ー日立の通勤通学ラッシュに対応するため、ダイヤ編成を変更してまでE531系5両からE501系10両に変更した時刻もあります。E501系が引退したあとはどうなるのか。その予想も含めて解説します。
E501系10両編成とは
茨城県や福島県南部と首都圏を結ぶJR常磐線。
かつては国鉄郊外型の電車が走っていましたが、通勤需要が高まるに連れて大量輸送に対応した通勤型の電車を導入する必要性が出てきました。
その時に登場したのがE501系です。
E501系は、京浜東北線などで使用されていた209系を踏襲する造りになっています。
わざわざ作らずに209系でよかったのでは?というのは事情が異なります。
常磐線は取手以北が交流電源となっていて、209系は走行することができません。そのため、交直両用列車としてE501系を新造したのです。
E501系には10両(基本編成)と5両(付属編成)が存在します。首都圏に乗り入れていた頃は両編成を連結して15両とし、上野ー土浦間を運行していました。
大量輸送向きの同編成。混雑緩和に役立ちましたが、全車両ロングシートという座席配置が旅行者には不評だった一面も。
時が進み、首都圏方面への列車がE531系に統一された今では、E501系は10両と5両に分けられ、土浦以北の常磐線や水戸線1)で地域輸送を担っています。
1)現時点ではE501系の運用範囲は土浦ー草野間に限定されており、水戸線への乗り入れは見合わせています(後述)。
E501系のいま
E501系5両(付属編成)
E501系の付属編成は、5両というフットワークの軽さから、地域輸送において重宝されています。
かつて、小山ー友部間を結ぶ水戸線は、旧形式の415系との置き換えでデータイムの全列車がE501系付属編成で統一された時期2)がありました。
しかし、水戸線内の小山ー小田林間のデッドセクション(電源を直流から交流に切り替える場所)で、何故か直流から交流に切り替わらないトラブルが頻発したため、水戸線を出禁に。
以降は水戸ーいわき間で常磐線の輸送を担っていたのですが…
2023年3月のダイヤ改正で、水戸ーいわき間のワンマン運転化が実施され、5両編成の大部分がE531系5両での運転となりました。
こうなるとE501系付属編成の活躍の場がなくなります。
実際に今では、E501系付属編成の運用は水戸ーいわき間の「わずか1往復」のみの設定となっていて、出番を大幅に失った同車両が水戸や勝田で留置されている姿をよく見るようになりました。
これは…「近い」かもしれません。
E501系10両(基本編成)
一方、E501系基本編成は、まだまだ忙しい毎日を過ごしています。
とはいえ10両固定という点で使い勝手が悪いというのが正直なところかもしれません。
当然、水戸線に入線することはできませんので、常磐線で活路を見出すことになります。グリーン車がついていない編成なので東京方面に向かえませんので、水戸以北の常磐線での運用が多くなっています。一部時間帯は土浦まで乗り入れていますが、その本数はダイヤ改正の度に減っていて、今では1往復のみの乗り入れになっています。
10両編成の普通列車が福島県に乗り入れるというのはここだけではないでしょうか。とにかく圧巻ですが、お察しの通り空気輸送になることが多い。特に土休日の夜間の上りなどで先頭車両に乗ると、いわき→日立でず〜っと一人だけ、ということもしばしばです。
そんな肩身の狭い10両編成ですが…
実はこれ、平日の朝夕には大活躍するのです。首都圏顔負けの大混雑区間である水戸〜日立間で威力を発揮します。
旅行者にとっては不評のオールロングシートですが、通勤ラッシュ時の”乗りやすさ”から地元の一般通勤通学者には絶大に支持されています。
なお、同編成が点検で走行できないときは、E531系グリーン車付き10両が代走することがあって、それはもう、鉄オタの間では大変なお祭り騒ぎになりますよ。
E501系10両を入れるためのダイヤ改正
パンク状態だった水戸07:03発いわき行き
水戸駅基準で見ると、06:46発の高萩行き、07:03発のいわき行き、07:19発のいわき行き、07:27発の高萩行きは特に混雑する時間帯を走行することになります。
特に07:03発のいわき行きは、上野05:10発の常磐線下り初電からの接続を受けるうえ、周辺の企業や学校の始業時間と重なっていて、特に混雑する傾向があります。
それなのに、2018年のダイヤ改正まではE531系5両編成で運行されていました。5両のうえ、悪名高きボックスシートが半分以上を占めるE531系です。
もうね、最悪です。この組み合わせ。
最も乗車率が高くなる東海〜大甕・常陸多賀・日立に向かうに連れて首都圏顔負けのギュウギュウ詰めに。車掌が「奥の方まで詰めてください」と何度も連呼するもむなしく遅延することも。
乗客にも首都圏ほどの混雑耐性はなく、乗車に時間がかかることがしばしばありました。
運用変更へ
短編成化を断固として進めて進める鉄道会社ですが、遅延が起きると事態を重く見るご様子。
2018年の改正で、使用車両をE531系5連からE501系10連に変更することになりました。
今でも混雑はしますが、当時の最悪な状況からは脱しています。
しかし、ダイヤ改正に当たっては運用変更が発生しましたので、苦労されたかと思います。
(一部予想が入りますが)かつていわき発土浦行きとして走行していた一部列車の土浦乗り入れを取りやめるなどして、E501系基本編成を捻出して内原の車庫に留置。翌朝に車庫から水戸駅まで回送して07:03発のいわき行きとして運行。この際、問題となったのは内原駅での出庫です。出庫すると内原駅の待避線に回送列車が入ることになりますが、同時間帯の待避線は水戸06:26発の特急ときわ58号(当時)の退避のために水戸06:22発の普通列車が使用していました。ここで優先したのは「E501系の出庫」でした。出庫のために待避線を使用するにあたり、水戸駅での上り列車の発車順序を逆転させたのです。
上り列車の発車時刻に変更が生じましたが、そのおかげで下り列車の混雑緩和に繋がりました。
ダイヤ乱れ時にも大活躍
常磐線(水戸ーいわき)間で早朝に運行障害が生じた場合にも活躍します。
前述の列車のなかで、水戸07:19発のいわき行きは、いわき方面から上ってくる列車の折り返しとなるため、早朝のトラブルで遅れやすい。
そうなると、07:27発の高萩行き(E531系5両)がパンクするので、07:03発のE501系10両をわざと07:19発まで待たせる判断をすることがあります。
ちなみに、07:03発のいわき行きが10両編成となったことで、最混雑列車は07:27発の高萩行きに譲ることになりました。07:19発のいわき行きは遅れがちな水郡線からの乗り換え客を乗せてから発車することが多く、高い頻度で遅延が発生していますが、これは高萩以北に向かう乗客の救済のほか、07:27発の高萩行きがパンクするのを防ぐためと考えられます。
E501系の引退後予想
まだまだ先の話なのか、すぐそこの未来なのかは分かりませんが…
引退しない電車はありません。
いずれE501系も引退の時を向かえます。
その時に我々は何を覚悟しなければならないのか。
「え~!寂しいなぁ!」と騒ぐ鉄オタはほっとけばOK(笑)
そうではなくて、常磐線を日頃利用する人にとって厳しい日々となるかもしれません。
2016年3月に「常磐線の415系を引退させ、新型車両を投入します!」と期待させておいて、415系8両の代わりに投入してくれたのはE531系5両だったという”偉業”を成し遂げた過去を持つ常磐線。
その影響もあり、特に日立17:54発の水戸行きや19:36発の水戸行きなどは、待ち列がホームからはみ出してしまい階段までつながったり、無意識に割り込んでしまったりなどのトラブルが起きるほどの大混雑になることもあるようです。
そんな現場の事情を知ってか知らずか「乗りきれているんだからいいよね」と、ありがたく短編成化してくれましたが、おそらくこの流れは続くでしょう。
E501系付属編成(5両)は、いままでありがとうございました。安らかに。
しかし、E501系基本編成(10両)だけは、もう少し頑張ってほしい。
なぜなら、代わりに投入してくれるのはE531系5両でしょうから…
なんてね。
まとめ
E501系10両編成の存在意義について、以下の知見を得ました。
- 福島県内では空気輸送感を否めない
- 水戸~日立間の通勤ラッシュで大活躍
- わざわざ車両繰りを変えて投入したことも
- 引退後はE531系5両に置き換え(?)
ではまた。
こちらも特殊。我孫子始発高萩行きというレアな運用も混雑対策と言われています。
日立駅から見る太平洋は一見の価値あり。生きているうちに是非どうぞ。