JR常磐線と東京メトロ千代田線が複雑に入り混じる西日暮里ー北千住ー綾瀬間では、運賃精算に関する特別なルールが複数混在しています。西日暮里ー北千住間は総じて「値下げしてくれている」計算方法ですが、その中身は(1)紙のきっぷと(2)IC乗車券で異なります。それでも「値下げが足りない」として係争に発展した「常磐線の二重取り問題」についても解説します。北千住ー綾瀬間はJR常磐線とも東京メトロ千代田線とも解釈される複雑な区間です。綾瀬駅で一旦下車することで運賃を節約できるケースもあります。
JR常磐線と東京メトロ千代田線
JR常磐線(各駅停車)と東京メトロ千代田線は直通運転をしています。
直通区間は東京メトロ千代田線を中心に、東はJR常磐線の取手駅まで、西は小田急線の伊勢原駅まで広がっています。
列車種別や乗り入れ区間の変更は随時行われているものの、JRと千代田線との直通運転自体は50年以上続いていて、いまやすっかり定着した運行体系になっています。
ただし…
JR常磐線(各駅停車)と東京メトロ千代田線との直通運転に関しては、何かとややこしい事情が入り混じっています。
一般利用者にとって特に大きく影響を受けるのは運賃計算でしょう。
この記事では、西日暮里ー北千住ー綾瀬間の運賃計算方法について、できるだけ分かりやすく説明するとともに、手間をかけてでも運賃を安く済ませたい人への旅のヒントもお伝えします。
北千住ー綾瀬間の運賃計算
まずは1つ目の複雑ポイント、北千住ー綾瀬間についてみていきましょう。
北千住ー綾瀬間はJRと東京メトロが重複
北千住ー綾瀬間には、
- JR常磐快速線
- 東京メトロ千代田線
が並行して走っています。
もともとJR常磐線が走っていた区間ですが、各駅停車を直通運転するにあたり、東京メトロ千代田線が入ってきました。
現在、綾瀬駅の管理は東京メトロが行っています。
「二重にするくらいならJR常磐線でよかったんじゃないか?」
私も昔はそう思っていましたが、そう簡単にはいかないんです。
東京メトロ千代田線の車両基地が北綾瀬にあり、仮に同区間をJR常磐線として運用してしまうと、綾瀬ー北綾瀬が孤立するのです。
そのため、もとはJR常磐線ではあるものの、東京メトロ千代田線北綾瀬とつながる北千住ー綾瀬間は東京メトロとしても運用するしかなかったのです。
北千住ー綾瀬間の運賃は柔軟に計算される
どうしても二重にせざるを得ない北千住ー綾瀬間。
運賃はどうなるの?という点ですが…
この区間の運賃は、東京メトロ千代田線でもJR常磐線でもあります。
…はぁ?何言っているの?…って、怒らないでください。ちゃんと説明しますが、この区間の詳細を厳密に説明しようとすると困難を極めますので、利用者の立場で知っておくべきことをつまみ食いで解説しますね。
「北千住ー綾瀬間の運賃は東京メトロ千代田線でもJR常磐線でもあります」
というのは、北千住または綾瀬を発着とする乗客の運賃計算において「乗客が不利益を被らないよう都合のいい方を適用する」という意味で捉えると分かりやすいです。
例えば…
北千住から取手方面へJR常磐線で向かう場合、北千住ー綾瀬間はJR常磐線の運賃が適用されます。JR線の運賃が発生し、東京メトロの運賃は不要です。
大手町方面から綾瀬まで東京メトロ千代田線で向かう場合、北千住ー綾瀬間は東京メトロ千代田線の運賃が適用されます。東京メトロの運賃が発生し、JR線の運賃は不要です。
このように、両社が重複する北千住ー綾瀬間の運賃は柔軟に取り扱われています。
ちなみに…
北千住ー綾瀬間のみを利用する場合、同区間は東京メトロ千代田線として扱います。
ただし、JR線の運賃表が適用されるため150円となりますが、「北千住ー綾瀬」間のみのJR線の乗車券は発券できません。あくまで東京メトロ線であってJR線ではないためです。
直通利用の場合は北千住接続
JR常磐線と東京メトロ千代田線を直通して利用する場合は、必ず北千住接続で計算されます。
例外なく、否応なしに必ず北千住接続となります。
一見影響ないように見えるかもしれませんが、残念ながらこの計算方法により損をすることが多いです。
その理由は「東京メトロの運賃は上昇が穏やか」であるのに対し、「JRの運賃は青天井でグングン上がる」ためです。
よって、JR線の区間の距離が長くなると不利に働くことが多いです。
例えば柏駅から明治神宮前(原宿)駅まで行く場合、
北千住接続:658円
綾瀬接続:570円
となります。
北千住ー綾瀬間で運賃が318円から406円に跳ね上がることから、このような不利益が生じます。
もしどうしても綾瀬接続で計算したいのであれば、綾瀬駅で一旦下車するしかありません。
乗車時に余裕があれば、券売機上の運賃表をチラッと見てください。
綾瀬と北千住の間に運賃差があれば一旦下車で安くなる可能性があり、その差が概ね50円以上であれば、確実に安くなります。
西日暮里ー北千住間の運賃計算
2つ目の複雑ポイント、西日暮里ー北千住間についてみていきましょう。
西日暮里ー北千住間は東京メトロ千代田線
JR常磐線(各駅停車)と直通運転する東京メトロ千代田線は、北千住駅を出るとJR常磐快速線と離れ、少し北側を走ります。
最初にJR山手線と交差する西日暮里駅では、多くの乗客が乗換をしていますが…
実は…
「西日暮里ー北千住間の東京メトロ千代田線を挟んでJR線を2回利用する場合は、JR線の運賃に対して特例的な割引を受けることができる」
…というルールがあります。
しかも、このルールは非常に複雑で、普通に利用している限りは何がどうやって割り引かれているのかを理解するのが難しいです。
一呼吸置いて読み進めていきましょう。
きっぷの場合「JR線区間を通算する」
まず、紙の乗車券を利用する場合。
JR常磐線(各駅停車)→北千住ー(東京メトロ)→西日暮里→JR山手線
と乗り継いでいった場合は…
【JR線運賃】
北千住までのJR常磐線(各駅停車)の営業キロと西日暮里からのJR山手線の営業キロを足し合わせて、運賃表に当てはめて算出。
【東京メトロ線運賃】
北千住から西日暮里までの180円。
運賃=【JR線運賃】+【東京メトロ線運賃】
となります。
例えば、亀有駅から上野駅まで、西日暮里駅乗換で進んだ場合。
全区間を1回ずつきっぷを購入した場合の合計運賃は500円となります。
しかし、実際にはJR線運賃を通算する連絡乗車券を買えるため、360円で乗車可能になります。
ICカードの場合「100円割引する」
一方、IC乗車券を利用した場合は別の複雑な計算が加わります。
西日暮里駅で下車した時点で一旦精算完了となるため、通算での運賃計算が出来ません。
…いや、やろうと思えばできるはずなのですが、現時点ではそのようなシステムにはなっていません。
これだとあまりにIC運賃が高額になってしまうため、西日暮里駅で60分以内に乗り継いだ場合に限り、100円を割り引くシステムが導入されています。
つまり…
【JR線運賃】
北千住までのJR常磐線(各駅停車)の運賃と西日暮里からのJR山手線の運賃を単純に足し合わせて算出。
【東京メトロ線運賃】
北千住から西日暮里までの178円。
運賃=【JR線運賃】+【東京メトロ線運賃】+【JR線運賃】ー100円
となります。
例えば、亀有駅から上野駅まで、西日暮里駅乗換で進んだ場合。
全区間をICカードで利用した場合、単純に足し合わせると491円となりますが、実際には総合計金額から100円引きが適用されるため、運賃は391円となります。
「常磐線の二重取り問題」について
西日暮里ー北千住間の特例が設けられた背景
ここまでの話を聞けば、西日暮里ー北千住間だけ乗客に有利な特別扱いをされているように映ると思います。
乗客の都合で東京メトロを挟んだ利用をしているのに割引なんていいなぁ…
…なんて思う人がいるのも当然のことと思います。
ただですね、これには直通運転を開始するにあたり「不便」となる利用者へ配慮した背景があるようです。
乗客の都合というより、鉄道会社側の都合という側面が強いのが同区間。
かつて、JR(国鉄)常磐線は、沿線の各駅に停車して乗客を拾いながら、そのまま上野方面に向かっていました。
しかし、東京メトロ(営団地下鉄)千代田線と直通運転することにより、常磐線快速電車が停車しない各駅利用者が上野に向かう際に乗り換えが必要になってしまいました。
特に、亀有駅と金町駅を利用している人にとっては悲惨。
国鉄と営団地下鉄の勝手な事情で北千住駅のホームが地下に潜り、上野方面に向かうには「かなり不便な」乗り換えを新たに強いられることになりました。
一方、千代田線と山手線が交差する西日暮里駅は比較的乗り換えが容易な構造で、同駅での乗り換えを促したい…
その際に常磐線各駅停車利用者の金銭的負担が少しでも軽くなるよう、西日暮里ー北千住間の特例的な連絡規則が設けられたのです。
特例適用でも「割高」
しかし、この特例をもってしても「割高」であることに変わりはありません。
例えば亀有から上野まで、JR常磐線だけで行けば初乗り運賃はJRへの1回のみで済む(230円)はずです。
それが”直通運転のせいで”西日暮里乗換をすることになると、JRと東京メトロ、それぞれに対して初乗り運賃を支払わなければなりません。
これが毎日のこととなれば、その差は無視できませんよね。
鉄道会社側の都合で初乗り運賃を2回支払うようになってしまった。
これが「常磐線の二重取り」問題と言われている所以です。
北千住乗換は「壁」
北千住乗換は「言うほど大変ではない」が…
正直、昔の私であれば「わがまま言わずに北千住で乗り換えろよ」と言っていたはずです。
特段の事情がなければ、普通に歩いて1-2分で到着できます。
階段を2つくらい上がるだけで地下ホームから地上ホームへ出られます。
ただし、階段を上がります。
ここが北千住の壁。
階段を。
階段をね。
階段なんですよ。
それかエスカレーターです。
北千住体験談「ベビーカーを抱えて階段を上がる」
私が北千住駅を「壁」と認識したのは子どもができてからです。
かつてベビーカーを押しながら東京メトロ千代田線→常磐快速線の乗り換えをしようとしたときに、
「ここはねぇ。(エレベーターが)ないんですよ」
と言われてしまったことがあります。
千代田線ホームからコンコースまではエレベーターがありますが、その先はありません。
その時は子どもを乗せたままのベビーカーを抱え上げて(※マネしないでください)何とか登り切りました。
別の人は「エスカレーターにベビーカーを乗せた」とか。(※これは絶対にダメなやつです)
とりあえずベビーカーならチカラワザで何とかできますが、これが体の不自由な車いすを利用している方であればどうでしょうか。
係争中なので、これ以上は何も言えませんが、まぁ…難しい問題ですよね。
なお、市民団体側の一部の方は「北千住ー西日暮里間も北千住ー綾瀬間と同様にJR線としても計算できるようにすべき」とも主張しているようです。
仮にでもこれが実現すれば、現在360円かかっている上野→亀有間の運賃は230円に低減されます。
はたして。
まとめ
西日暮里ー北千住ー綾瀬間の運賃計算に関して、以下の知見を得ました。
- 北千住ー綾瀬間はJR常磐線と東京メトロ千代田線が重複している
- 前後の利用区間に合わせて運賃計算方法が変わる
- 直通列車を利用する場合は北千住接続となる
- JR線を挟んで西日暮里ー北千住間を利用する場合は特例が適用される
- 上記特例の計算方法は紙のきっぷとIC乗車券で全く異なる
この記事ではひたすら「不便」と言われてしまった北千住駅ですが、複雑な構造を逆手にとった運賃計算のトリックがあります。特にIC乗車券を利用して東武線から半蔵門線に向かう利用者は、知らず知らずのうちに「オトクな運賃」になっていることが多いです。気になる方はご覧ください。
ではまた。