2021年3月、コロナ禍の影響を受け、減便を目的とした白紙改正が実施された田園都市線。急行と準急が多い田園都市線に乗車し、快速が走った過去から今までを振り返りました。文字多めですみません。
東急田園都市線について
東急田園都市線は、渋谷から中央林間を結ぶ全長31.5kmの私鉄線です。
渋谷から二子玉川を結ぶ路面電車「玉川線」が国道246号線の交通の妨げとなっているとして地下に掘られた「新玉川線」と、二子玉川から中央林間を結ぶ何もない田園地帯に街を作るべく敷かれた「田園都市線」が合体したのが2000年8月のこと。以来、田園都市線自体は渋谷と中央林間を結ぶ路線として活躍を続けています。
何もない土地を東急主導で宅地開発し、沿線人口も急増。今では日本屈指の混雑路線として知られています。
そんな田園都市線に乗る機会に恵まれましたので、いざたまプラーザ駅のコンコースからホームへと足早に向かいますが…

あれ??

せんせー!各駅停車が来ないんですけど!!
増発を続けた東急線
東急田園都市線は混雑緩和や利便性向上を目的に、工夫に工夫を重ねて増発を繰り返してきました。
快速と長津田止まりの廃止
筆者が幼稚園くらいの頃の薄れた記憶を辿っていくと…
大昔の田園都市線は、急行・各停・各停のサイクルで運転されていましたと記憶しています。しかも急行と各停のうちの1つは長津田止まり。長津田ー中央林間の末端区間は各駅停車のみの運転。
急行は長津田止まりですが、長津田駅で中央林間行きの各駅停車に連絡。長津田止まりの各駅停車は鷺沼駅で急行と緩急接続するため、乗り換えればスムーズに中央林間方面へたどり着くことができました。
不便かと思いきや、意外と理にかなった運行体型だったのですね。
なお、この頃は一部の速達列車を快速として運転していました。快速は現在の準急とほぼ同じ停車駅。急行はラッシュ時のみで、昼間は快速として運転というパターンでした…よね?
その後、快速を全て急行化し、ほぼ同時期に急行が中央林間まで延伸。長津田より西の末端区間の利便性が大きく向上しました。
大井町線との直通運転
都市部への人口集中が加速する中、宅地開発が活発だった田園都市線の利用客は急増、ついにキャパオーバーが見えてきました。
ターミナルとなっている渋谷駅が1面2線の手狭なホームで、周辺地下環境の事情もあり拡張が困難。そのため、渋谷駅を先頭に池尻大橋駅付近まで3本の電車が渋滞することもザラ。とにかく田園都市線の増発には限界がありました。
急行が急行の役割を果たしていないことに気付き出したのもこの頃。ラッシュ時の急行を準急に格下げし、二子玉川ー渋谷間を各駅停車としました。
それでも焼け石に水。八方ふさがり状態の田園都市線。
そこで目をつけたのが大井町線。
当時は各駅停車のみのローカル線でしたが、ホームを拡張した上で6両編成(のちに7両)の急行を運行開始。東京方面に向かうことのできる他路線とのバイパスとして活用を開始しました。
さらに、南武線からの流入がある溝の口駅と大井町線との乗換駅である二子玉川駅との間を複々線化し、大井町線を溝の口まで延伸。特にひどかった両駅間の混雑対策を進めました。
さらにさらに、大井町線の急行を田園都市線長津田方面に直通させ、下り列車に限り座席指定車両を導入。
渋谷駅の欠陥を補う様々な工夫と大井町線への投資を繰り返してきました。
渋谷止まりの電車を運行
極めつけはこれ。少し前まで昼間に「各駅停車渋谷行き」が2本/時程度運転されていました。
渋谷駅には引込線がないうえ、過密なホームで短時間の折り返しをするのは困難ですが、半蔵門線に直通しても本数過多で東京メトロにメリットが少ない。
しかしどうしても増発したい東急は、とんでもない力技に出ます。
この電車は田園都市線内を各駅停車として運転し、渋谷駅に到着後、乗客を全員降ろします。その後、東京メトロの運転士にバトンタッチし、引込線のある半蔵門駅まで回送。折り返しの渋谷駅までも回送し、ここで客扱いを再開、渋谷駅始発の田園都市線として運転しました。
一説によると東京メトロ内の回送費用も東急が負担していたといいます。
とにかく本数を増やすことに必死でした。
コロナ禍による減便
しかし、2021年3月。新型コロナウイルスの流行により、増発の流れに終止符を打つことに。
渋谷発の下りで見ると、急行が20分に1本、準急が20分に1本、その間に各駅停車が走るダイヤに再編成。これまでの15分サイクルから20分サイクルに見直すと同時に、渋谷発着の電車を廃止に。基本的には減便一色の改正です。
でもこれ、溝の口以西ではちょっと状況が違います。
というのも、大井町線からの急行が3本/時も直通してくるのです。
そうなると、溝の口発の下りで、急行6本、準急3本、各停6本に。15本/時の本数が確保され、依然として活況です。
しかもこれ、全部中央林間まで行くので、世田谷の大都会の三軒茶屋(12本/時)よりもスヌーピーしかいない南町田グランベリーパーク(15本/時)の方が本数が多くなったり、都区内まで4駅の梶が谷(6本/時)よりも西の果ての急行通過駅つきみ野(9本/時)の方が本数が多くなったりと、都会と田舎の逆転現象も起きているのが面白いですね。
そして、相対的に見て各駅停車が希少種に。
冒頭でお話しした「各駅停車が一向に来ない」というタイミングも生まれたのです。

これからの田園都市線は?
コロナ禍を受けた減便を実施した田園都市線。
ワクチン接種が進んだ後であっても「リモートワークが続く」と予想されているこの先の世界線で、再び増便に舵を切ることはあるのでしょうか?
むしろ「あの渋谷駅」を何とかしなくても回せるのでは?と中の人は思っているかもしれませんが、仮に増便するとなったとしても、これまでの知見がありますからすんなり移行できるでしょう。
今回のダイヤ改正で注目すべきは、昼間の大井町線急行列車を中央林間まで全て乗り入れさせたこと。そして、田園都市線の渋谷口は減便となっている一方で、溝の口以西は本数がしっかり確保されていること。
コロナ後に利用が回復した場合は、大井町線の大活用時代が来るかもしれませんね。
ではまた。