長野県の中心駅「長野」と中核都市「松本」を結ぶ篠ノ井線には、快速列車が走っています。その多くは、かつて特急「あずさ」の間合い運用や、おはようライナーとして運行されていたスジの生き残りですが、途中駅を通過することによる時間的メリットが生まれやすい路線としても知られています。過去に特急車両が充当されていた松本発長野行きの快速列車について書いていますが、いまでは”普通の車両”での運行です。
篠ノ井線とは
松本と長野を結ぶ路線
篠ノ井線は、長野県内を走るJR東日本の路線です。正確には篠ノ井-塩尻間を結ぶ路線なのですが…
便宜上、お断りを入れさせていただきます。
篠ノ井線の正確な区間は先に示した通りですが、実態は長野と松本を結ぶ路線です。長野-篠ノ井間は信越本線ですが、この区間を含めた長野-松本間を篠ノ井線として表記させていただきます。
ちょっと難しい話になってしまいましたが、新幹線で行ける長野と、特急あずさで行ける松本の間を効率よく移動できる手段として、篠ノ井線は大いに活躍しています。
姨捨駅が有名
篠ノ井線という言葉を知らなくても「姨捨(おばすて)」という地名を知っている人は多いでしょう。
篠ノ井線の途中に姨捨駅という景色のいいところがあります。鉄道ファンのみならず、多くの観光客が訪れる鉄板スポットです。
ホームから見下ろす善光寺平の景色はあまりにも有名。夜景も綺麗ですよ。
…そんな姨捨駅ですが、後ほどの議論にも登場するちょっと厄介な駅でもあります。
篠ノ井線には快速があります
そんな都市間を結ぶ篠ノ井線には、快速列車が走っています。
普通と快速の違い
快速列車は下記のダイヤで設定されています。※篠ノ井以南各駅停車タイプは除いています
長野 | 松本 | 所要時間 |
0654 | 0801 | 1:07 |
松本 | 長野 | 所要時間 |
0710 | 0811 | 1:01 |
0812 | 0911 | 0:59 |
2005 | 2107 | 1:02 |
特に長野方面行きの快速列車は軒並み早く、1時間を切る列車もあるのがお分かりいただけると思います。
一方、普通列車の場合は、一例として
- 長野1232→松本1401(1:29)
- 松本1229→長野1349(1:20)
などと、快速列車よりも時間がかかっていることが分かります。
快速列車の時間的メリット
快速列車は途中駅を飛ばしながら走りますが、これによる効果が特に大きい理由が「姨捨駅」に隠れています。
駅を急こう配の途中に設置できない関係上、姨捨駅は本線から離れて設置されています。姨捨駅に停車する場合、スイッチバックをしないとホームに入線できない仕組みになっています。
このため、姨捨駅に停車するとなると、それだけで5分程度は時間のロスが生まれてしまいます。
一方、姨捨駅に停車しない列車は、スイッチバックの行程をすべてスキップできるため、速やかな峠越えができます。
快速列車は姨捨駅を通過するため、時間的なメリットが生まれやすいと言われているんですね。
もちろん、速達化できた要因はこれだけではありません。
単線区間を走る篠ノ井線において、列車の行き違いは所要時間を致命的に伸ばします。停車駅を絞り、行き違いが少ないダイヤを組めたことも貢献しているのでしょう。
快速列車には”大胆な車両繰り”が見られた
そんな快速列車が突如として現れたわけではなく、過去に存在した大胆な車両繰りが起源になっています。
松本2005発長野行きと、その折り返しの長野0654発松本行きは、今でこそ普通の通勤列車が使われていますが、過去には特急「あずさ」として使われていたE257系が運用についていました。
新宿方面から特急「あずさ」として営業運転してきた列車を松本駅到着後に長野まで快速列車として延長運転していたのです。時刻表上は松本止まり、松本始発として繋がりなく記載されていましたが、実際には松本駅到着後にそのまま乗車していてOKでした。
つまり、首都圏から長野まで、在来線経由で乗り換えなしの旅が楽しめた時代がつい最近まで続いていた、ということなんですね。
また、松本0710発長野行きは、かつて「おはようライナー」として運転されていたダイヤで、極端に停車駅が絞られています。完全に松本から長野への通勤客用として設けられたものですが、車両運用の変更により、こちらも普通の通勤列車があてがわれているようです。
快速列車に特急車両が充当された時代
過去と現在の時刻表を比較
突然ですが、2021年の時刻表と2010年の時刻表が手元にありますので、松本ー長野間の快速列車について下記します。
時期 | 種別 | 松本発 | 長野着 | 備考 |
2010年 | 快速 | 20:10 | 21:13 | グリーン車自由席連結 |
2021年 | 快速 | 20:05 | 21:09 |
時期 | 種別 | 長野発 | 松本着 | 備考 |
2010年 | 快速 | 06:55 | 08:03 | グリーン車自由席連結 |
2021年 | 快速 | 06:54 | 08:02 |
一見するとほとんど同じように見えますが、唯一大きく異なるのが2010年版には「グリーン車自由席連結」という記載があった、という点。
もうお分かりですよね。特急型車両が使われていた形跡が、時刻表上にも残っているのです。
E257系を使用
特急あずさの車両「E257系」が篠ノ井線に向かいます。
かつては毎日走っていた、松本ー長野間に特急車両を利用した快速列車。
特急車両なのに快速だから追加料金が要らない。そして、グリーン車に乗る場合でも普通列車用の安価な料金でOK。乗り得な列車としてファンの間では知られた存在だったのです。
特急列車を使わない「青春18きっぷ派」の方々にとっても、立川発松本行きの普通列車から接続を取る形で発車するため、スムーズな移動が可能に。追加料金なしで楽しめることから、’苦行’中のひと時の安らぎを味わうことが出来る貴重な列車でした。
なぜ長野に乗り入れたのか?
特急車両を快速列車として運転するのは「サービスの一環か?」というと、まぁ結果的にはそうなっていましたが、実際には車両運用上の便宜を図っていたと思われます。
一般に、特急は都市間移動の手段として大活躍していますが、夜間はちょっとヒマになります。
そのため「車両を眠らせておくくらいならもうひと仕事してもらおう」というブラックな発想で、特急車両を使った普通列車やライナーを走らせるということが各地で行われていました。
おそらく松本ー長野間の快速列車もそのような位置づけだったのでしょう。
特急「あずさ」で松本到着後に、翌朝まで眠らせておくくらいなら長野まで往復営業運転させた方が効率的だったのかもしれません。
E257系の快速に乗車した記録
こういう変則的な運用は「準備が整い次第」消えていくというのが世の常だったので、早いうちに乗っておくことにしました。
2009年のできごとでした。
当日は青春18きっぷで北陸方面からの旅行で長野に到着していたのですが、この快速に乗るためだけに松本まで遠征。
お弁当を広げながら帰ってきたのでした。
乗車した車両には、我々2人以外誰もいない状態で発車。
ふと周りを見ると全く清掃されていないことに気づきます。
それもそのはず、冒頭でも話したように「特急あずさとして到着後にそのまま長野に向かう」ため、車内清掃も入らないのです。
松本が終点だからと言って片付けずに下車する人も多かったのでしょうね。たとえ終点だったとして自分で出したごみくらい片付けろよとは思いますけど。
特急列車での運転は終了
さて、この快速列車は今でもほぼ同じ時刻で走っていますが、先に記したように、特急車両での運行では終了しています。
変わったのは2019年3月のダイヤ改正でした。
契機となったのは中央線特急列車の車両更新。
今ではE353系が活躍する中央線の特急ですが、さすがにこの車両を使った長野遠征は避けたようです。車両運用を見直し、普通の通勤列車で運行されていますのでご注意を。
車両こそ格下げになりましたが、当時のスピードはそのままに健在です。
松本ー長野間を移動するときには、ぜひ快速を活用してみましょう。
まとめ
篠ノ井線の快速について考察し、以下の知見を得ました。
- 篠ノ井線は松本と長野を結ぶ鉄道路線
- 姨捨駅は景色はいいが、運行上は鬼門
- 快速列車は姨捨駅を通過するとともに行き違いを最小限にして速達化
- 速い列車では60分を切る
- 過去には特急型車両を使った快速列車も走っていた
ではまた。