博多と長崎を結ぶ主要路線の一端を担う長崎本線は、西九州新幹線が武雄温泉ー長崎間で部分開業以降、武雄温泉経由にメインルートの座を譲りました。しかし、西九州新幹線が開業した今でも、長崎本線は存続しています。しかもJR線として運営されています。この記事では、博多ー長崎間の移動において「あえて新幹線を使わずに在来線で行く」選択をした場合に得られるメリットと注意点を、現在の長崎本線の様子とともにご紹介します。輝かしい新幹線の陰で、長崎本線は今も走り続けています。たまには在来線の旅はいかがですか?
長崎本線とは
博多と長崎を結ぶ「旧特急街道」
長崎本線は、佐賀県の鳥栖駅から長崎県の長崎駅までを結ぶ路線であり、路線長は約125kmに及びます。
鳥栖駅では鹿児島本線に接続。長崎本線に入る全ての特急列車が鹿児島本線と直通運転し、博多方面と直結しています。
長崎県下では、諫早ー長崎間に2つのルートが存在するのが特徴。開通当時は「長与経由」と呼ばれる遠回りのルートのみの営業でしたが、長崎市への速達性向上のために「長崎トンネル」が建設され、新線となりました。新線が開通した後も、新旧路線ともに運行が継続されています。
かつては博多と長崎を結ぶメインルートとして活躍。多くの特急列車が走る、いわゆる”特急街道”でした。2022年9月までは、特急「かもめ」が長崎本線を行き交っていました。
西九州新幹線開業で「特急が撤退」
2022年9月、長崎県待望の新路線「西九州新幹線」が武雄温泉ー長崎間で開業します。
鳥栖ー江北(ー武雄温泉)間は新幹線が未開業であることから、今でも数多くの特急が運行しています。
一方、江北ー長崎間の長崎本線はメインルートとしての役目を終え、その役割を新幹線に譲っています。
江北ー肥前鹿島間はかろうじて特急列車が残りましたが、これは鹿島地区への需要に応えるために区間運転であり、肥前鹿島から先に向かう特急列車は消滅しました。
西九州新幹線開業で「架線も撤退」
西九州新幹線の開業による長崎本線への影響は、特急の撤退だけにとどまりませんでした。
なんと「電化設備を撤去して非電化にする」という判断まで下されたのです。
非電化となったのは、肥前浜ー長崎間。
特急列車の運行が継続される区間は電化設備が維持されましたが、普通列車のみとなった区間は気動車が運行を担うことになったのです。
これにより、長崎駅の在来線ホームに「電車」が入線することはなくなりました。
同区間では貨物列車の運行はなく、沿線をトラックで輸送する方式が取られていますから、コスト重視で非電化にすることが可能だったようです。
実際に長崎本線に乗車すると、貨物を積んで有明海沿岸を進むトラックと並走することもあります。
西九州新幹線開業後もJR線として存続
地元の主要都市を結ぶ長崎本線。
西九州新幹線が開業してメインルートではなくなった後でも、諫早ー長崎間は通勤・通学需要が残るというのは容易に想像できたことです。そのため、同区間はJR線として存続するだろうと見込みが立ちました。
一方、江北ー諫早間は厳しい見立て。一部では第3セクター化も厳しく、廃止するのではないかという話も出ていました。
しかし、長崎県と佐賀県が設立する「佐賀・長崎鉄道管理センター」が設備を保有し、JR九州が列車の運行のみを継続する、いわゆる”上下分離方式”が取られ、引き続きJR線として継続されることになりました。
経営視点での判断には上記のような難しい背景がありますが、利用者視点では「これまでと変わらずJR線の運賃でJR線のきっぷを買ってJR長崎本線に乗車する」ことが可能です。
新幹線が開業した今でも、在来線の旅を楽しみながら長崎に向かうことが可能。
では、行ってみましょう。
あえて新幹線を使わずに在来線で行くメリットと注意点をご紹介します。
長崎本線(在来線)で行くメリット5選
低コストで移動ができる
特急料金がかからない
特急や新幹線を乗り継いでいくと、どうしても特急料金がかかってしまいます。
在来線の普通列車で行くのであれば、運賃のみでOKですから、低コスト化が実現します。
JR線の運賃で計算
通常、新幹線が開業した後の並行在来線は第3セクターとなり、JR線と比較して高額な運賃が設定されます。
しかし、長崎本線は全区間存続しただけでなく、JR線として継続されています。
博多ー長崎間を普通列車のみで移動するのであれば、わずか2,860円でOKです。
青春18きっぷの利用もできますので、在来線での移動はこれまで通りと考えていいでしょう。
なつかしい車両と新型車両を楽しめる
鳥栖~江北(肥前浜)間は電車(817系など)
JR九州では普通列車の車内も快適な車両が増えています。
その一つともいえるのが817系電車です。
この車両は、一見首都圏でも走っていそうな通勤電車ですが、車内は快適な造りになっています。
進行方向に向かって着席できる設備が整っています。なお、ロングシートに改造された車両も走っているようです。
江北(肥前浜)~諫早は旧型気動車(キハ47)
前述の通り、長崎本線の一部区間は非電化となっております。
そのうち、江北(肥前浜)~諫早間は、キハ47系という旧型の気動車が走っています。
新型車両とは異なり、ボックスのシートが並び、扇風機も装備するキハ47。
懐かしい雰囲気を楽しみながら有明湾を進むことができます。
諫早~長崎は新型気動車(YC1系)
新幹線と真っ向から競合する諫早-長崎間ですが、地元での利用も多いほか、大村線(佐世保方面)の列車も乗り入れているため、新幹線開業後も活況です。
同区間では、JR九州の新型気動車「YC1系」が活躍しています。Yasashikute Chikaramochiだそうです。
優しすぎて何かにびっくりしたような顔の車両ですが、ハイブリッド式の気動車で、走り出しの乗り心地は”ほぼ電車”と思わされます。
ロングシートではありますが、座席をはじめとした装飾が高級感を醸し出しています。乗る機会があったら床に注目。QRコードになっています。
景色がきれい
有明湾の沿岸を進む長崎本線。
特急「かもめ」で長崎に向かうときに、有明海の景色を見て印象に残っている人も多いようです。
今では「かもめ」から見ることはできませんが、普通列車で旅をすれば拝むことができます。
特に途中の小長井駅は、最も有明海に近い駅と言われています。
途中下車を楽しめる
博多-長崎間の移動であれば、片道100kmを越えますので、途中下車ができるようになります。
途中で気になった駅があれば降りてみましょう。
肥前浜駅
写真は、電化-非電化の境界駅である肥前浜駅の外観。
同駅には観光協会の他、地酒を楽しめる「HAMA BAR」も入店。
乗換駅となることも多く、立ち寄る機会もあるでしょう。
諫早駅
新幹線も停車する諫早駅のコンコースにスターバックスが入店しています。
何の変哲もない店舗に見えますが…
窓が全面ガラス張りになっていて、西九州新幹線・長崎本線・島原鉄道の各線を楽しめるようになっています。
あえて在来線で行こうとするような鉄道好きであれば立ち寄ってみたらいかがでしょうか。
空いている
博多ー長崎間の移動は、武雄温泉経由の西九州新幹線を利用するルートに主導権を譲っています。
そのため、長崎本線で移動する人は少なくなっていますが、特急がなくなった今でも、普通列車の本数はこれまでと同程度確保されています。
鳥栖ー江北ー肥前鹿島、諫早ー長崎間では利用が多いものの、県境の肥前鹿島ー諫早間は利用が低迷しています。もちろん、これは喜ばしいことではありませんが、利用者視点では「空いている」とも言えるのです。
4人掛けのボックス席を独り占めして移動することも可能ですから、乗車時間が長くなってもゆったり過ごすことができます。
長崎本線(在来線)で行く注意点4選
気を付けておかなければならないこともあります。
本数が少ない
まずは列車本数の問題。
特に佐賀県ー長崎県にまたがる区間では、本数が非常に少なくなっています。
例えば、小長井→肥前浜の時刻表を見ると、08:22の次は13:19、16:42と、5時間近く間隔が空くこともあります。
在来線で行く場合は、必ず時刻表を確認するようにしましょう。
その際は、肥前浜ー諫早間が難所であることを認識し、同区間で乗車する列車を決めたうえで前後を組み立てていくことをお勧めします。
時間がかかる
当然ではありますが、普通列車の移動では時間がかかります。
最も乗り換えの少ないケースとして、博多を12:09に出た場合、矢継ぎ早に乗り換えても長崎に着くのは15:34になります。
リレーかもめ+西九州新幹線の組み合わせであれば1時間30分程度で到着しますので、「ゆっくり行っても2倍くらいでしょ?」と見積もっていると痛い目に遭います。
また、博多ー長崎間を走破する普通列車はありません。必ず「鳥栖」と「江北または肥前浜」での乗り換えが必要で、多くの場合は「諫早」でも乗り換えが生じます。
安いとは限らない
コストが安いのが在来線の1つめのメリットでしたが…
実はそんなに安くはありません。正確に言うと、西九州新幹線が安すぎるのです。
期間限定で発売されている「おためし!私たちも、かもめ。早割7」を利用すると、博多ー長崎間が3,200円(指定席利用)となります。
予約は7日前までで、変更もできない制約はありますが、それでも格安であることは間違いないでしょう。
復習ですが、在来線利用時の普通運賃は2,860円です。
わずか340円をプラスするだけで特急+新幹線で移動できることになります。
7日前に間に合わなくても、かもめネットきっぷ早割3(3,600円)やかもめネットきっぷ(4,200円)もあります。こちらにはグリーン車利用の設定もあるようです。
広い視点で判断するのがいいでしょう。
乗車券の経由に注意
在来線で移動するための乗車券を購入する際は、必ず「新幹線を利用しない」にチェックを入れて(選択して)購入するようにしましょう。
普通に「博多ー長崎」で発券してしまうと、「鹿児島線・長崎線・佐世保線・武雄温泉・新幹線・長崎」という経由になると思います。
この場合、現・メインルートを進まなければならなくなり、有明海沿岸の長崎本線には乗車できないことなります。
経由に注意して発券するようにしましょう。(※心配であればみどりの窓口を利用しましょう)
まとめ
長崎本線に乗車し、以下の知見を得ました。
- 博多ー長崎間を在来線で行くと、新旧の車両を楽しめる
- 景色がきれい
- 途中下車の旅を楽しめる
- 空いていてのんびり過ごせる
- 時間がかかるうえ本数が少ないので事前の計画が必須
- 乗車券の経由に注意
- 在来線で行くとコストが安くなるが、新幹線の割引きっぷといい勝負
JR九州
>> こちらげ
現・メインルートとなった西九州新幹線を利用する場合、必ず武雄温泉駅での乗り換えが必要です。一方、武雄温泉駅で途中下車する場合、きっぷの買い方に注意点があります。下記の記事でご紹介していますので、「絶対に武雄温泉駅を終点とは言わず、頑なに乗換駅と言い張る」様子とともにお楽しみください。
ではまた。