新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ場合、在来線の特急料金が半額になる「乗継割引」という制度がありました。晩年はは縮小傾向で、「適用される区間」と「適用されない区間」を適切に見分ける必要があるなど、旅行業務取扱管理者試験にも必ず登場する複雑な制度でした。総じて(1)東海道新幹線方面、(2)フル規格新幹線の末端から伸びる在来線特急列車や(3)フル規格新幹線の途中駅から分岐して伸びる重要路線、では制度が適用されていました。徐々に廃止されていった区間もご紹介しますので、当時を懐かしみましょう。
乗継割引とは何だったのか?
乗継割引の概要
最初に、乗継割引とは何だったのかを説明します。
乗継割引とは、新幹線と在来線特急列車を乗り継いで移動する際に、在来線の特急料金が半額となる制度です。
通常、新幹線と在来線特急列車の特急料金は各区間ごとに別々に支払う必要があります。もちろん、乗継割引を利用する場合でも、特急料金は各区間ごとに計算しますが、乗継として同時発券するだけで在来線の特急料金が割引となるため、大変オトクな制度でした。
乗継割引の割引対象料金
鉄道を利用する際に必ず必要となるのが運賃で、乗車券に相当します。一方、特急列車に乗車する場合に乗車券とは別に必要となるのが特急料金で、特急券に相当します。
乗継割引の対象となったのは特急料金で、乗車券は割引の対象にはなりません。
また、特急料金の中でも、基本となる特急料金のみが対象。グリーン車を利用する場合でも乗継割引の対象となりますが、グリーン料金相当額は無割引でした。
乗継駅での途中下車は可能
新幹線と特急列車を乗り継いで利用することが前提となっていますが、乗継駅で改札の外に出ることは可能でした。
もちろん、乗車券が途中下車ができるタイプの場合に限りますが。
当日中であれば列車は制限されない
乗り継ぎの日程は当日中であれば問題ありませんでした。
乗り継ぎの対象列車同士の時間がかけ離れていても大丈夫。
さらに、在来線から新幹線に乗り継ぐ場合に限り、新幹線に乗車するのが翌日になっても問題ありませんでした。
乗継割引の申し込み方法
実際にきっぷを発券する際の乗継割引の申し込み方法については注意が必要でした。
乗継割引を適用するには、特急券購入時に「新幹線特急券」と「在来線特急券」を同時に購入する必要があり、別々に購入し、あとから乗継割引を適用することはできませんでした。
乗継割引の特急券は指定席券売機でも発券することができ、その際は、新幹線と在来線を別々に購入せず、乗継となるように入力する必要があるので気を付ける必要がありました。実際には「新幹線⇒在来線」などのボタンが用意されていることが多く、乗継を意識して操作すれば間違えることはありませんでした。
乗継割引が存在した理由
なぜ「JRにとって不利となりそうな乗継割引の制度」が整備されていたのか?
キーワードとなるのが利用者に対する「救済措置」です。
在来線の鉄道網が日本中に張り巡っていたころ、多くの遠距離特急列車が日本中を走り回っていました。時間がかかりながらも、大都市圏から目的地まで乗り換えなしで行けるケースが多く、特急料金は通しで計算されていました。
一方、新幹線の運行が開始されると、遠距離移動は新幹線が担うことになりました。在来線を走る特急列車の運行ルートは分断されて、新幹線と特急列車を乗り継いで目的地に向かうのが新しい旅のスタイルになりました。
その際、ただでさえ高額な新幹線の特急料金に、新幹線下車後の在来線特急料金が別にかかる点から、利用者の負担増となるケースが増えてしまいました。
これを軽減するため、新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐ際に、在来線区間を半額にしたのが乗継割引の起源であると言われています。
このように、乗継割引は利用者に対する救済措置として導入されることが多いことを覚えおくことが重要でした。この理解が複雑な対象区間の判断の一助となっていたのです。
最後まで乗継割引の対象となっていた区間
乗継割引の対象となっていた区間について説明します。
乗継割引は、新幹線と在来線特急列車の乗り継ぎが対象となりますが、適用される区間が限られるので注意が必要でした。
北海道新幹線
北海道新幹線では、新函館北斗駅での乗り継ぎが対象でした。
北海道新幹線と特急「北斗」を新函館北斗で乗り継ぐと、特急「北斗」の特急料金が半額に。
なお、JR北海道では「北海道新幹線で新函館北斗到着後に札幌方面に向かう」ことを想定しているとは思いますが、「北海道新幹線で新函館北斗到着後に函館方面に向かう」利用でも対象となっており、ちょっとした贅沢な移動が可能でした。
なお、新青森駅での乗り継ぎも対象でした(東北新幹線の項目で詳細説明)。
東北新幹線
東北新幹線では、新青森駅での乗り継ぎが対象でした。
東北新幹線と特急「つがる」を新青森で乗り継ぐと、特急「つがる」の特急料金が半額に。なお、新青森ー青森間での利用は対象外となっていましたが、同区間では自由席に限り乗車券(運賃)のみで乗車できる特例があるため、あまり意識はされておりませんでした。
上越新幹線
上越新幹線では、長岡駅と新潟駅での乗り継ぎが対象でした。
上越新幹線と特急「いなほ」を新潟で乗り継ぐと、特急「いなほ」の特急料金が半額に。上越新幹線と特急「しらゆき」を長岡または新潟で乗り継ぐと、特急「しらゆき」の特急料金が半額になりました。
東京方面から上越新幹線を利用し、長岡駅で特急「しらゆき」に乗り換えて新潟へ向かう場合も、特急「しらゆき」の特急料金を半額にすることができたのです。
北陸新幹線
北陸新幹線では、長野駅、上越妙高駅、金沢駅での乗り継ぎが対象でした。
なお、当時は北陸新幹線は金沢止まりでした。
北陸新幹線と特急「しなの」を長野で乗り継ぐと、特急「しなの」の特急料金が半額に。北陸新幹線と特急「サンダーバード」「しらさぎ」を金沢で乗り継ぐと、特急「サンダーバード」「しらさぎ」の特急料金が半額になりました。
北陸新幹線と特急「しらゆき」を上越妙高で乗り継ぐと、特急「しらゆき」のJR線部分の特急料金が半額に。この場合、直江津が起終点となり、直江津ー上越妙高間のえちごトキめき鉄道線区間の特急料金が無割引で加算される複雑な計算でした。特急「しらゆき」の利用区間が直江津発着で、直江津ー上越妙高間を普通列車で移動する場合は、乗継割引の対象外となるなど、乗継の定義は厳密でした。
北陸新幹線と特急「能登かがり火」を金沢で乗り継ぐと、特急「能登かがり火」のJR線部分の特急料金が半額になりました。この場合、津幡が起終点となり、金沢ー津幡間のIRいしかわ鉄道区間の特急料金が無割引で加算される計算となりました。
東海道新幹線
東海道新幹線では、新横浜~新大阪駅の各駅での乗り継ぎが対象になりますが、一部対象外の特急列車がありますので注意が必要でした。
東海道新幹線と東海道新幹線各駅から発車する在来線の各特急列車を乗り継ぐと、各在来線特急列車の特急料金が割引に。例示するときりがありませんが、例えば、特急「ふじかわ」を静岡駅で、特急「伊那路」を豊橋駅で、特急「しなの」「南紀」「ひだ」「しらさぎ」を名古屋駅で、特急「しらさぎ」を米原駅で、特急「サンダーバード」を京都駅で、特急「くろしお」を新大阪駅で乗り継ぐ場合に対象となりました。
また、東海道新幹線で新大阪駅を利用する場合、大阪駅発着で利用する特急列車も割引の対象。
一方、特急「踊り子」「湘南」「サフィール踊り子」など、主にJR東日本が運行する首都圏の特急列車(“全車指定席”による新特急料金が採用されている列車と、その高級版が目安)に乗り継ぐ場合は対象外とされていました。
山陽新幹線
山陽新幹線では、新大阪~相生間の各駅での乗り継ぎがのみが対象でした。
山陽新幹線とその対象駅から発車する在来線の各特急列車を乗り継ぐと、各在来線特急列車の特急料金が割引になります。例えば、特急「スーパーはくと」を姫路駅で乗り継ぐと、スーパーはくとの特急料金が割引になりました。
乗継割引のメリット
乗継割引のメリットについてまとめておきましょう。
特急料金の節約
乗継割引を利用することで、在来線特急料金が半額になり、コスト面でメリットがありました。
該当する乗継がある場合は、必ずチェックして適用を受けるというのが鉄則でした。
まとめて発券できる
乗継割引を利用することで、新幹線特急券と在来線特急券をまとめて発券することができました。
請求も纏められますから、(会社によっては)経費精算もラクだったのです。
乗り継ぎの意思を示せる
乗継割引で発券することで、当該旅客が乗り継ぐ意思を簡単に示すことができました。
特に多いのが、在来線の特急列車が遅れてしまい、新幹線の発車時刻に間に合わないケース。
これが逆であれば、在来線の特急列車が遅れている新幹線を待ちますが、新幹線は在来線の遅れを待たずに発車することが多いです。在来線の遅れを新幹線が待ってしまうと、その後の影響が多岐にわたるため、接続を取るかどうかは慎重になっていると思われます。
乗継ができなかった旅客は後続列車の指定席を利用する権利がありますが、駅では混乱が生じているため、多くの場合は後続列車の自由席の利用となります。その際は、乗り遅れや設備変更に対する返金措置を受けることが可能です。返金額は基本的に”事故列変による新幹線特急料金の半額戻し”を受けることになりますが、状況により異なることがあります。詳しくは乗継駅や最終到着駅の係員にご相談ください。
乗継割引の裏ワザ的な使い方
とんぼ返りで使用する
乗継割引は、新幹線と在来線を乗り継ぐ場合に適用されますが、その方向は(特別に指定されている場合を除き)制限がありませんでした。
このことを逆手に利用して、とんぼ返りな旅程でも乗継割引を適用することができたのです。
例えば、長岡と新潟を往復する場合。
ゆきを上越新幹線、帰りを特急「しらゆき」とすると、帰りの特急料金を半額にすることができました。
わざと新幹線に1駅乗車して節約する
乗継割引は、新幹線と在来線を乗り継ぐ場合に適用されますが、新幹線の利用距離には制限がありません。
新幹線に1区間だけ乗車する場合、それが自由席であれば極めて安価(870-880円程度)になります。
このことを逆手に利用し、「長距離の在来線特急券」+「極めて安価な新幹線特急券」を組み合わせて、「長距離の在来線特急券」を半額にすることができました。
例えば、金沢駅から特急「サンダーバード」に乗車して大阪方面に向かう場合。
全区間「サンダーバード」で移動せずに、金沢ー京都間を特急「サンダーバード」、京都ー新大阪間を東海道新幹線(自由席)とすることで、高額となる特急「サンダーバード」の特急料金を半額にすることができたのです。これによる値下げ額は東海道新幹線1区間の自由席特急券相当額を上回るため、特急料金全体の節約をすることができます。
乗継割引の注意点
在来線-新幹線-在来線の乗継は1列車のみ対象
もし、新幹線の乗車前後に在来線の特急列車を利用する場合は、1列車のみが有効。
例えば、秋田ー新潟ー(新幹線)ー長岡ー直江津と乗り継ぐ場合。
新潟ー長岡間の新幹線特急券と紐づけられる在来線特急券は1枚のみでした。
通常は高い方が適用されますので、上記の例では秋田ー新潟間の特急券のみが対象となったのです。
変更や払い戻しに制限が出る
通常、特急券は1回に限り無手数料で変更ができます。
乗継割引を適用して発券した「新幹線特急券」と「在来線特急券」も乗車変更することは可能ですが、原則として2枚1セットで取り扱うことになっていました。
無割引である「新幹線特急券」にも(乗継)と小さく印字されていますから、単体で払い戻しをしようとするとエラーで弾かれます。
また、区間変更や払い戻しにより乗継割引が成立しなくなった場合は、在来線特急券が無割引になるため、その差額が必要でした。
新幹線eチケットやEX-ICは対象外
東海道・山陽新幹線で展開されているEX-ICや、JR東日本管内を中心に展開されている新幹線eチケットを利用する場合は、乗継割引の対象外。
単に東京ー新大阪間を移動する場合はEX-ICが最安となりますが、その先で在来線特急列車に乗り継ぐ計画があるのであれば、EX-ICを利用しない方がオトクになることがあるので注意が必要でした。
また、紙の乗車券類であっても、在来線の特急列車に対して発売される「えきねっとトクだ値」などの割引切符を利用する場合は対象外となります。
割引額にもよりますが、割引きっぷを単発で買い足していく方が安くなることもありました。
ちなみに、これらのチケットの台頭によって乗継割引が駆逐されていったともいわれています。
既に廃止となっていた乗継割引
東北新幹線や上越新幹線の途中駅
かなり前は、東北新幹線や上越新幹線の途中駅(大宮以南を除く)においても乗継割引が適用されていました。
例えば、仙台駅も対象で、ゆきは東北新幹線、帰りは特急「スーパーひたち」とすることで、特急「スーパーひたち」の特急料金を半額にすることが可能でしたが、晩年では廃止になっていました。
山陽新幹線相生以西
四国方面
山陽新幹線を岡山駅で下車し、四国方面に向かう場合は乗継割引の対象外でした。例えば、特急「しおかぜ」に岡山駅から乗車しても、特急「しおかぜ」の特急料金は半額にはなりません。
かつて、岡山から高松または坂出まで普通列車で移動したのち、高松または坂出から四国方面の特急列車に乗り継ぐ場合であっても、同特急列車の特急料金が半額になる特例がありましたが、こちらも段階的に廃止されておりました。
例えば、山陽新幹線を岡山駅まで利用し、快速マリンライナーに乗り継いで高松駅まで行った後、特急「うずしお」に乗り継ぐ場合。かつては特急「うずしお」の特急料金が半額になったのですが、晩年は無割引となりました。
山陰方面
岡山より西の新幹線停車駅を起点に運行される山陰方面の特急列車も対象外。
例えば、岡山発の「やくも」や「スーパーいなば」、新山口発の「スーパーおき」なども乗継割引の対象外となり、新幹線と特急列車を乗り継いで山陰方面に向かう移動は高額となりました。
サンライズ瀬戸と四国内特急列車
かつて、サンライズ瀬戸と四国内特急列車を乗り継ぐ際に、四国内特急列車に対して乗継割引が適用されていました。
しかし、この制度も廃止。
これをもって、一足早くJR四国内では乗継割引が全廃することになりました。
まとめ
乗継割引について、以下の思い出を列挙しました。
- かつて、新幹線と在来線特急列車を乗り継ぐと、在来線特急料金が半額になる制度があった
- 乗継割引が適用される区間には制限があり、晩年は急速に縮小
- 乗継割引を巧みに利用すると特急料金を節約できオトクであった
- 割引きっぷやEX-ICなどとの併用はできなかった(これが廃止の決め手となった可能性がある)
JR東日本、きっぷあれこれ
>> 乗継割引(廃止)
ではまた。