JR東日本では、降雪が予想される2024年2月5日~6日に首都圏在来線特急の特急券をキャンセルしても手数料を取らない措置を実施しました。しかし、これは(1)「えきねっと予約限定」で、(2)所定の発車時刻数分前までに、(3)えきねっとサイトから取り消す場合、に限ります。券売機で発券した紙のきっぷ(えきねっとで予約し、受け取り済みのきっぷを含む)は対象外です。なぜこのような「中途半端な措置」を取るのか?実はこれ、利用者にとっても、JR東にとってもメリットのある、理にかなった対応なのです。
悪天候時のきっぷの取り扱い
特急料金の払戻しについて
JR線の特急列車に乗車する際には、乗車券のほかに特急券が必要です。
列車の遅延が発生した時の基本的な情報として覚えておきたいのは、
【特急券】は以下の条件に当てはまれば無手数料払戻しの対象
・2時間以上遅れて到着した場合
・一部区間*が運休となった場合
※一部区間には山手線内を含みません
というルールがあること。
基本的に、特急券は当日にトラブルが発生した場合に無手数料払戻しの対象となるものなのです。
悪天候が”見込まれる”場合は特例措置あり
一方、悪天候が見込まれる場合は、前項に関わらず払戻し時に手数料を取らない対応に応じることがあります。
これは、当日の混乱を避けるために、JR東が規則を超えた独自のオプションとして用意しているものです。
多くのケースでは
悪天候が見込まれる場合に払戻し手数料無料の対象となるケース
・公式の発表がある事
・対象列車の予約をしていること
・対象期間中の予約であること
・発車時刻前であること(※状況により後日の払い戻しも可)
などを対象に実施され、みどりの窓口にきっぷを持参すれば、手数料を払わずに払い戻しを受けることができます。
悪天候事案ごとに個別に設定されるものですから、必ず公式の発表を確認して適切な対応を取る必要がありますが、このような柔軟な対応をしてくれるのは助かりますよね。
さて、ここまでの話はかなり前までの従来の対応です。
近年は状況が少しずつ変わってきています。
えきねっと限定の「無手数料払戻し」対応へ
私が知る限りでは2024年に入って初めて実施されるようになったことがあります。
それが「えきねっと予約限定の払戻し無料対応」です。
具体例としては、2024年2月の降雪予報の際に発表された、
2/5(月)~2/6(火)は降雪が見込まれるため、首都圏を運転する在来線特急列車のご予約を事前にキャンセルする場合には手数料がかかりません。ただし、以下の条件を満たす場合に限ります。
(1)まだきっぷを受け取っていないこと
(2)所定発車時刻6分前以前であること
(3)無手数料払戻の対象列車が予約に含まれていること
というものです。
これはつまり、
・えきねっと予約をサイト上で自分で払い戻すなら手数料はかかりません
・紙のきっぷの取り扱いは通常通りで、払戻し手数料の対象となります
という、えきねっと予約と紙のきっぷで対応が分かれるものでした。
実は悪天候対応としてはあまり例を見ないものかもしれません。
えきねっとでの「無手数料払戻し」の遍歴
ちょっと中途半端にも見えるこの措置ですが、なぜこんなことをしているのか考えるにあたり、まずはこれまでの遍歴を覚えておきましょう。
悪天候時の運転継続下での払戻しは判断が複雑
もし、悪天候によって実際に運休が発生したのであれば、その列車にお客さんが乗っている可能性はゼロですから、無条件に無手数料払戻しをすることができます。
この対応は人を介することなく、システムが自動で行うことができますし、実際にそのような運用が取られてます。
しかし、悪天候時でも運転を継続した場合は、当該予約を持っている乗客が乗ったかもしれないし、乗っていないかもしれないという、どっちつかずの状態になります。
このようなケースでは、お客さんから「乗らない」という宣言をしていただかないと、無手数料で払戻しをするわけにはいきません。例えばチケットレス特急券を予約のお客さんが、本当は乗っていたのに、悪天候だからという理由でシステムから自動で無手数料による払戻しをしたら大赤字ですよね。
運転状況がどっちつかずの悪天候時では、払い戻しの判断が難しいのです。
従来は「えきねっとでも電話での申し出が必要」だった
しかも、便宜上は「悪天候による旅行に中止」のみを無手数料払戻しの対象としていましたから、えきねっとからお客さんの手によって勝手にキャンセルすると手数料収受の対象となっていました。
形式的にでもキャンセル理由を聞き出さなければならなかったため、えきねっとサポートセンターへの電話による対応が必要だったのです。
これは面倒ですよね。
本音「お客さん主導で操作してほしい」
建前を大切にしすぎた結果、不便になっている状況。
これを打開しようと始まったのが「えきねっと上での操作であれば無手数料払戻し」の取り組みです。
悪天候による影響が予想される「決められた期間中」の「決められた列車」の「えきねっと予約」を持っている場合は、お客さんの手による操作でキャンセルする際に、特に理由を聞くことなく手数料を取らないことにしたのです。
これにより、お客さんの負担軽減と、えきねっとサポートセンターの混雑緩和に向けた取り組みが始まったのです。
しかしこれは、紙のきっぷを持っている人に対しても無手数料払戻しをしているような状況下での話です。
2024年2月に見られた事象は、これとは異なるものですよね。
えきねっと限定「無手数料払戻し」の是非
えきねっと上なら手数料を取らず、紙では手数料を取るという、一見中途半端な対応になった推定理由に迫ります。
本来は「払戻しをするほどの状況ではない」
まず、現時点では「払い戻し対応をしなければならない状況ではない」と考えていることが大前提としてあると思われます。
もし、警報級の台風が迫っているようなケースでは早々に計画運休を決定したり、そうなることを容易に予見できる状況と言えますから、早々と無手数料払戻しに応じる対応が取られると言えます。
一方、降るかどうかわからないけど影響が出そうだという程度であれば、広く無手数料払戻しに応じるのは時期尚早と言えるでしょう。
係員を介さず「お客さん自身での判断を推進したい」
そして、係員を介さずに、セルフで問題を解決してほしいという意思が見て取れます。
既に紙のきっぷを受け取ってしまっている場合、その払戻しには必ず係員の手が必要です。極めて特殊な例を除き、お客さん自身で払い戻しをすること自体が不可能なのです。
言い換えれば、紙のきっぷを持ってしまっている時点で「係員を介さず」という目的は既に達成できないステージに立ってしまっているのです。
それであれば、どうなるか分からない現時点で払戻しに応じたりはせず、実際に事態が深刻になりそうだと分かった時点で呼びかけて対応しても結果は変わらないということになります。
一方、まだ紙のきっぷを受け取っていない状態であれば、「係員を介さず」という目的を達成しうる状態にあります。
それであれば、ある程度早い段階で規制を緩和し、お客さん自身で広い選択肢から判断してもらった方が、混乱回避の観点では優位であるということになります。
現時点で旅行を中止するのであれば、その操作をしてもらうことで係員を介さずに予約をなかったことにすることができますし、(機会損失はあるものの)少なくとも人件費という点においては全くかかっていない状態で一件落着とすることができます。
えきねっと上で管理されている予約と、紙で受け取ってしまった状態のきっぷでは、その後にかかる人件費が全く異なるのですね。
利用者のメリット
この判断は利用者にとって大きなメリットがあります。
まず、このような発信をすることによって
「万が一払戻しになった際に手続きが厄介となる紙のきっぷの受け取りを様子見にしてもらえる」
ことが挙げられます。
そして、
「悪天候当日に特急列車の遅れが発生した際に、お客さんの判断で特急利用⇔普通列車利用の切り替えを柔軟に行える」
ということもメリットとして挙げられるでしょう。
これは、当日の混乱を避けるという点においてはJR東においてもそのままメリットとして跳ね返ってきます。
今後もこのような取り組みが続くことでしょう。
まとめ
最近の新しいトレンドとして、えきねっと予約の受け取り前であれば無手数料払戻しに応じるという取り組みが見られます。
(1)まだきっぷを受け取っていないこと
(2)所定発車時刻6分前以前であること
(3)無手数料払戻の対象列車が予約に含まれていること
などが条件として見られます。
その背景には係員を介さずに、お客さんの意思を尊重した対応をしてほしいというJR東からの意思が見られます。
ではまた。