豊橋駅で名鉄がJRから理不尽な扱いを受けている!?駅や線路を共用する歴史的背景を解説

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鉄道
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豊橋駅では駅の設備をJR東海と名鉄が共用で使用し、改札内で繋がっています。また、豊橋駅から平井信号場までの線路も両社で共用しています。一方、(1)豊橋駅で名鉄に与えられたホームは1本のみで、せわしなく折り返し運転をしています。(2)共用区間を走る列車本数には最大でも毎時6本しか走らせることが許されていませんし、(3)共用区間の直線的な線形にしては遅すぎる制限速度が設けられています。まるで、ライバルの名鉄に対してJRが嫌がらせをしているようにも見えますよね。こうなった理由として(1)大昔にJR東海と名鉄が1本ずつ線路を作って複線にした、(2)6本/時の本数制限を設けた、(3)その後に会社の勢力図が変わった、などの歴史的背景が挙げられ、決して嫌がらせをしているわけではありませんが、そう見えるのは無理がないでしょう。

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名鉄とJR東海はライバル関係にある

まず、大前提の話をします。

名鉄名古屋本線は、豊橋⇔名古屋⇔岐阜を結ぶ中部地方の大手私鉄線です。

JR東海が運行する東海道本線と完全に競合している関係にあります。

出典:国土地理院Vectorに筆者追記
※豊橋ー名古屋間のみ記載

まずはこのことを頭に入れておきましょう。

では以下をどうぞ。

豊橋駅のようす

JR東海が管理する豊橋駅では、東海道新幹線のほか、在来線として「東海道本線」や「飯田線」が発着し、周辺のターミナル駅になっています。

駅構内もJR東海一色。独占場になっています。

…と思いきや、見慣れない文字を発見。

名 鉄 線

そう、JR豊橋駅の真ん中から、名鉄名古屋本線が発着しています。

IC乗車券をタッチする簡易改札が設置されてはいるものの、改札内で両社が繋がっており、名鉄が間借りをしているような格好です。

乗り場に繋がる通路はJR東海そのもの。

そこにあるコンビニは「ベルマート」だし、3番線以外の左右のホームからはJR東海313系車両が発着しています。

ここは明らかにJR東海の敷地なのに、ライバルともいえる名鉄線が発着しているというのは珍百景の一つともいえるでしょう。

共用区間(豊橋駅~平井信号場)のようす

さらに驚くべきこととして、名鉄とJR東海は一部区間で線路を共用しています。

具体的には、豊橋駅と平井信号場の間の3.8kmが該当します。

この区間は名鉄名古屋本線であり、JR飯田線でもあるのです。

この区間は非常に面白く、途中の船町駅と下地駅はJR飯田線の駅であり、名鉄線は全列車が通過。というか、駅が存在しないことになっています。

下の写真は名鉄線の展望席から撮影したものですが、「下地」と書かれたJR東海の駅名標が確認できると思います。

この区間は、名鉄の車両もJR東海の車両も走る奇妙な区間となっているのです。

そして、平井信号場に至ると、名鉄とJR東海の車両はそれぞれの目的地へと分かれていきます。

線路は同じでも名鉄とJRは別線扱い

このように、同じ線路を走る2路線ではありますが、運賃計算上は別路線扱いとなります。

当然と言えば当然ですが、JRの乗車券で名鉄の車両には乗れませんし、名鉄の乗車券でJRの車両には乗れません。

下記のような、JR飯田線の小坂井駅までの乗車券を持ちながら、名鉄名古屋方面に向かう場合は、乗車券が有効なのは豊橋駅までとなります。平井信号場手前の下地駅から名鉄の乗車券で乗り越しをすることはできません。

名鉄が「嫌がらせを受けている」ように見える理由

さて、ここから少しずつディープな話題に入っていきますと、一部では、

「名鉄が豊橋駅でJR東海から嫌がらせを受けている」

と言われることがあります。

まさに立場を利用した嫌がらせであるとして「豊橋ハラスメント」などと言ってみたりする人もいます。

なぜそう見えるのか、見ていきます。

豊橋駅で使えるのは「3番線」だけ

先ほども話したように、豊橋駅では名鉄線が3番線から発車します。

言い換えれば、3番線しか使わせてもらえません。

名鉄にとって都市間を結ぶ大動脈の終着駅なのに、使えるホームが1つしかないんです。

まるで「管理しているJR東海が最低限しか分け与えていない」ようにも見えますよね。

毎時6本しか走らせられない

さらに、共用区間における列車の本数制限が「毎時6本まで」と取り決められています。

時刻表上は名鉄だけでなくJR東海も取り決めを守っているように見受けられますが、JR飯田線はそこまでの本数は必要ないので、ダイヤ繰りに余裕があります。

一方、名鉄は大動脈の終着区間ですから、可能な限りの増発をしたい…

出典:名古屋鉄道

豊橋駅の時刻表を見ると、日中はきれいに6本ずつ発車しています。

これ以上走らせると本数制限に引っかかってしまうがために、名古屋本線の普通列車は手前の伊奈駅止まりとし、競争力のある優等列車を優先的に豊橋へ向かわせているのです。

本当は全列車とも豊橋まで行きたいはずなのですが、許されないんです。

ダイヤ乱れ時はJR飯田線を優先

共用区間の運行はJR東海が管理しています。

そのため(かどうかは分かりませんが)、JR飯田線や名鉄名古屋本線のダイヤが乱れた時は、JR飯田線の列車が優先して運行されることが多いとのこと。

JR飯田線のダイヤが乱れると、名鉄の列車は手前の伊奈駅での時間調整を強いられるようですが、その割に豊橋駅では、

「今度の飯田線は遅れている名鉄線の到着を待ちまして発車いたします」

などと、何様だよお前!って言いたくなるようなアナウンスが流れることもあるようで、見かねた利用者が「また嫌がらせだ」と言っているのかもしれません。

私はそのようなアナウンスを聞いたことは無いですし、そもそも蚊帳の外なわけですが、もし名鉄の指令を私が任されたらモヤモヤする日もあるんじゃないかなぁ…と思わざるを得ません。

制限速度を厳しく設定

極めつけにこれでしょう。

共用区間を実質管理しているのはJR東海であり、信号制御や制限速度の設定もJR東海が行っていると言われています。

共用区間の線形は、伊奈付近の名鉄線や並行する東海道本線とほぼ同じであるはずなのに、制限速度が厳しく設定されています。

名鉄線が約120km/hで走行するのに対し、ほとんど線形の変わらない共用区間では85km/hまで減速を強いられています。

85km/hというのはJR飯田線の最高速度に合わせているとも言えますが、しかし「名鉄では120km/h運転を実施している直線状の線形の延長」であることを考えるとやはり不自然です。

まるで、JR飯田線の制限速度が低いことを利用して、名鉄のスピードダウンを狙うかのようなやり方にも見えますよね。

ややこしくなった歴史的背景

こんなことになってしまったのには、大昔の取り決めが関係しています。

もちろん名鉄もこんな未来を予測していたわけではないでしょうが、少し遡ってみましょう。

別会社が1本ずつ線路を作って複線に

ときは1920年代。今から100年も前の話です。

豊橋から西に向かう列車に立ちはだかる「2本の川」に橋を架けるのも一苦労という時代にさかのぼります。

豊橋と豊川方面を結ぶ豊川鉄道(のちのJR飯田線)が単線で橋を架けて列車を往来させていました。

名古屋方面から豊橋をめざして線路を伸ばしてきた愛知電気鉄道(のちの名鉄線)も川にぶち当たりますが、隣には豊川鉄道の線路がすでにある状態。

「うちも1本線路を作るので、1本ずつ共用して複線運行しませんか?」

そんな話を持ち掛けたのが原点。

出典:国土地理院Vecotrに筆者追記

一部区間では両社が競合関係になりえるため、豊川鉄道側はあまり前向きではなかったそう。

それでも、とりあえず複線の線路を互いに利用できるようになるという点では理にかなった関係だったともいえるわけですね。

運行本数は毎時6本に取り決め

好き勝手に増発されては困りますから、共用するにあたって運行本数の制限が取り決められました。

これが今に続く「毎時6本ルール」となっています。

また、制限速度も遅い方に合わせたものではないかと思われます。

ともあれ、複線での運行は進んでいきます。

豊川鉄道が国鉄に買収される

しかし、1943年になると事態は一変し、豊川鉄道の全線が国鉄(のちのJR東海)に買収されてしまいます。

これによって焦ったのは(愛知電気鉄道から発足した)名鉄です。

別に飯田線はいいんです。飯田線は。

問題は別の路線。

国鉄には東海道線があり、名鉄にとって最大のライバルなのです。

国鉄がJRになった今でも、このライバル関係は続いています。

前述の買収劇の末に、名鉄も使用していた豊川鉄道の線路がライバルのものとなってしまった。

大ピンチです。

豊橋駅の拡大の波にも乗れず

しかも、終点の豊橋駅はJR東海の駅であり、名鉄の手は及びません。

JR東海が自由に拡大を続けていく中でも、名鉄はわずか1本の線路しか持っておらず、厳しい運用繰りを強いられ続けているのです。

歴史を辿れば名鉄側が半ば強引とも言えるような交渉の末に手に入れた共用区間に、100年後も苦しめられるとは。

いゃぁ、苦しいですね。

名鉄にとっても現状が最善か

もし、こんな状況が嫌だというのであれば、さっさと名鉄専用の豊橋駅を自前で作ればいいのです。

しかし、それをしない理由(できない事情)はみなさんもお気づきの通りでしょう。

では、飯田線と名鉄が単線1本ずつに戻したらどうか。

もちろん契約があるので簡単には行きませんが、仮にできたとしても名鉄には利がないかもしれません。

単線化したら、平井信号場から豊橋駅まで行き、折り返して再び平井信号場に帰ってくるまでの間、同区間に1つの列車しか入線できません。

これでは毎時6本はおろか、2~3本が限界でしょう。

結局新たに自前で複線化したり、途中に待避線を設けたりする必要が出てきます。

名鉄の大動脈の終着駅が、この1本。

この状況はこの先も続くかもしれません。

しかし、この1本があるおかげでライバル関係が保たれ、

  • JR東海道線では豊橋以西で速達列車が走る
  • 名鉄線では名古屋特割2などの企画乗車券が発売される

など、利用者が享受できる多くのメリットが広がっていったのでしょう。

改めて、豊橋駅の3番線に対して敬意を示し、この記事を終わりにします。

まとめ

豊橋駅で名鉄がJRから嫌がらせを受けているように見えるのは無理がないでしょう。

  • 歴史的背景からJRと名鉄が1本ずつ線路を持って共用している
  • 豊橋駅はJR東海が管理している
  • 共用区間の指令もJR東海が担当している
  • ダイヤが乱れた際は飯田線が優先されることが多い
  • 線形に見合わず制限速度がきつい
  • 毎時6本ルールを厳格に運用している

などの歴史的背景を含む事情から、今の形になっています。

決してJR東海が名鉄に対して嫌がらせをしているわけではありません。

あくまで取り決めの中で最大限の抵抗をしているに過ぎないのでしょう。

ん!?それを嫌がらせという!?いやぁ~どうでしょう。

ではまた。

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