首都圏のJR在来線特急列車では、全車指定席化が進んでいます。この場合、自由席はありませんので、指定席特急券を購入して利用することが原則となります。何らかの事情で指定席券を購入できない場合は、区間と日付のみを定めた「座席未指定券」で乗車することもできます。座席未指定券には、(1)満席でも乗れる、(2)飛び乗ることができる、(3)席の移動が柔軟にできる、などのメリットがありますが、狙って快適に使うのは上級者向け。実際には、(1)指定席特急券と同額以上でありながら、(2)空席状況により席の移動が必要、(3)時間帯によっては席を失う、(4)ポイントがつかない、(5)変更のためにみどりの窓口に行く必要がある、などデメリットが目立ちます。満席などでやむを得ない場合を除き、安易に座席未指定券を使用するのはやめた方が良いでしょう。
特急列車の指定席と自由席
指定席と自由席とは
指定席とは、列車の中で「あらかじめ予約をした特定の座席を確保して確実に座ることができる座席」のことです。
予約が必要であり、指定された号車の指定された席に座らなければなりません。
また、座席指定料金が含まれるため、割高になる傾向があります。
一方、自由席は、予約が必要なく「空いている好きな席に座ることができる座席」のことです。
好きな席を状況に応じて選択することができるため重宝されましたが、混雑している場合は座れないこともありました。
また、窓側に座って通路側に荷物を置いたり、最初から通路側に陣取って窓側に座らせないように仕向ける行為(※途中駅で降りるために気を使って通路側に座っているにもかかわらず、嫌なやつと見られてしまうケースもありました)も見受けられ、乗客マナーの面で使いづらいと感じる人もいたようです。
首都圏のJR在来線特急列車は全車指定席です
さて…
JR東日本管内の首都圏の在来線では、特急列車の全車指定化を推進しています。
- 常磐線「ひたち」「ときわ」
- 中央線「あずさ」「かいじ」「富士回遊」
- 中央線「はちおうじ」「おうめ」(平日のみ)
- 東海道線「踊り子」
- 東海道線「湘南」(平日のみ)
- 高崎線「あかぎ」
※「草津・四万」も全車指定席ですが「座席未指定券」では利用できません
全車指定席の場合は、自由席よりも料金が高くなることが一般的ですから、露骨な値上げと揶揄されたこともありました。
しかし、JR東日本の目論見はちょっと違う。
お金というよりも、車掌の業務簡略化に主眼を置いています。全車指定席としてお客さんには指定の座席に座ってもらい、発売していないはずの席に乗客がいた場合にのみ検札を行うよう、オペレーションを変えたのです。
その見返りとして(かどうかは分かりませんが)、全車指定化にあたって従来よりも割安な特急料金体系を新設し、乗客への負担感を最小限にしました。かつての自由席よりも値上げとなってしまった区間が生じたことは確かですが、A特急料金が設定されていた区間(上野ー日立など)では、従来の自由席相当額よりも新しい指定席のほうが安価になるなどの”逆転現象”も見られたくらいです。
「座席未指定特急券」を新設
全車指定席の場合は、列車全体として予約ができる座席数に限りがあるため、満席になったら原則として乗ることができません。
しかし、これではあまりにもお粗末ですよね。
ということで、救済措置として用意されたのが「座席未指定券」です。
座席未指定特急券は
- 利用する区間
- 利用する日付
のみを定めた特急券で、同日中であればどの特急列車(※)にも乗ることができます。
(※)少々話が長くなりますが、トラブルを目撃したので記載します。誤解をされない書き方をすると座席未指定券を使えるのは「旅客営業規則の別表第1号の2に書かれた列車群」となりますが、嚙み砕いてポイントを下記しておきます。
【乗れない列車】
・草津・四万
・臨時運行の”特殊”な特急
基本的にはどの特急列車にも乗車できますが、これは首都圏の全車指定特急列車の割安な料金体系が適用される特急列車に限ります。例えば、大月ー新宿間の座席未指定券をお持ちであれば、「あずさ」「かいじ」「富士回遊」であればどの特急列車にも乗車できます。臨時列車であっても、全車指定特急の料金体系が適用される列車(例えば特急「富士回遊91号(富士山マラソン号)」など)であれば、富士回遊を名乗っているので利用できます。列車名が単に特急「超絶ハッピーなぶどう狩り号」とかだったら乗れません。
座席未指定券のメリット
満席でも乗れる
週末の特急「あずさ」や平日夜間の特急「ひたち」は満席になることも増えてきましたね。
満席なのに特急券を買っていない、という大ピンチな状況でも特急に乗ることはできます。
座席未指定券の最大のメリットは「満席でも乗れる」という点。
メリットというより仕方なく買っている面があるとは思いますが、立ってでも早く行かなければならない、というシーンでは大いに活躍します。
「どうせ立つなら車内で買えばいい」というのは少し違います。別にそれでもいいのですが、車内料金(+260円)が適用されてしまい、座っている人よりも高い金額を払って立つことになります。満席の場合でも座席未指定券を購入してから乗車するのがいいでしょう。
飛び乗ることができる
とにかく早く行きたい。
間に合うようであれば飛び乗りたい。
でも間に合うかどうかわからない。
後述する「チケットレス特急券」は指定列車以外無効(※)です。ほぼ駆け込みに近いような乗り換えが予測されている状況では心配です。
東京駅で5分乗り換えかぁ…心配だな。
そんな時に役立つのが座席未指定券です。
座席未指定券は、列車を指定しておりませんので、飛び乗りにも対応できます。
座席未指定券を買わずに飛び乗っても、車内で車掌から特急券を購入することは可能ですが、車内料金が適用されて割高(+260円)となってしまいますから、事前料金で飛び乗れるのは座席未指定券の特権ともいえるのです。
(※)かつてチケットレス特急券は乗り遅れ無効と案内されていた時期がありましたが、2023年4月30日時点では「当日に限り後続列車の空席をご利用いただけます」と案内されています。詳しくはこちらをご確認ください。
なお、指定列車よりも前の列車に飛び乗ってしまうと車内料金を支払う必要があります。これは、発車時刻前のチケットレス特急券はオンラインで別列車に変更できてしまうためです。
指定列車のチケットレス特急券は、発車時刻までに手続きをすれば、別日程の列車に無料で変更ができるほか、所定の手数料を負担すれば払い戻しも可能ですので忘れないようにしましょう。
赤色ランプの席から自由に座席を選べる
座席を指定したのはいいものの…
「太陽がまぶしい」とか「自分の周りだけ人が多い」とか「騒がしいグループがいる」とか…
自分の好みではない環境だったということもありますよね。
座席を指定している場合であれば、仕方なく座り続けるしかありませんが、座席未指定券であれば空席である限りどこに座ってもOKなので、柔軟に座席を選択することができます。
特に、出発時点で満席であっても途中で下車が続いて最終的にガラガラになるケース(夜間の下り方面の特急列車)では、最初は立っていることになりますが、最終的には好きな席に座れます。
払い戻し手数料が安価
万が一座席未指定券を使用しないことになった場合は、有効期限内であれば340円で払い戻しをすることができます。
通常の指定席特急券の場合、前日以降の払い戻しは30%相当額の手数料がかかってしまいますし、指定していた列車に乗り遅れた場合には、後続の列車に乗車ができるものの、払い戻しはできません。
その点、座席未指定券は当日キャンセルでも340円で済むというのはありがたいですよね。
どうでしょうか。
従来の自由席券のような存在で「これは使いやすい」「これで行けばいいかもね」と思った人もいるかもしれませんが…
座席未指定券を快適に攻めの姿勢で使いこなせるのは上級者。
一般的には全くよろしくありませんので、次項で解説します。
座席未指定券のデメリット
指定席特急券と同額
まず1つめのデメリットですが…
座席未指定券は自由席券とは異なり、指定席特急券と同額に設定されています。
席を確保できず、待遇も異なるのに同額を支払うのは納得がいかないと思う人も多いでしょう。
それだけではありません。
JR東日本のインターネットサイト「えきねっと」を利用すれば、スマホで完結の「えきねっとチケットレス特急券」を購入することができます。
えきねっとチケットレス特急券は、通常の特急券よりも100円安く設定されていますので、座席未指定券よりも安く着席できることになります。
しかも、万が一使わなくなって払戻しする場合の手数料も、座席未指定券よりも安い320円で済みます(※)。
以上のように、座席未指定券にはコスト面でのメリットは何もありません。
(※)稀な例ですが、熱海ー三島間(JR東海)区間を含む場合は紙の指定席特急券と同様の取り扱いとなります。直前に払い戻す場合は、発売額の30%(最低340円)の手数料がかかります。
空席状況により席の移動が必要
全車指定の特急列車内には、座席の上にランプがついています。
座席のランプが緑色の席は指定済み、黄色の席は間もなく乗車予定。
赤色の席は、しばらくの間指定されたお客さんが来ない席となりますので、座席未指定券を利用する場合は原則として赤色ランプの席に着席することになります。
しかし、特急券は発車直前まで発売されていますので、一気に赤色から緑色に変わることがよくあります。
全く落ち着きません。
時間帯によっては席を失う
利用の多い時間帯の上り列車で特に注意が必要です。
特に常磐線や中央線においては、指定席が発車直前に見る見るうちに売れていき、最終的に満席になってしまって座席を失うケースもあります。
特急「あずさ」では上諏訪あたりから雲行きが怪しくなり、甲府で行き場を失うでしょう。
特急「ひたち」では日立あたりから車内を徘徊することになり、水戸で完全に席を失うことになるでしょう。
コロナ禍でお客さんが激減しているというのは、とっくの昔に終わっています。
飲みかけの缶チューハイとともにデッキに立っている乗客を見ると言葉も出ませんが、指定しておけば安心なので、次回以降は指定してねとお節介ながらに思っています。
ポイントが付かない
「えきねっと」で指定席を予約すると、JRE POINTが貯まります。
JR東日本では、ポイントを利用した特急券やグリーン券を展開していて、JRE POINTが1ポイント1円以上の価値を発揮することも多くなってきました。
特にチケットレス特急券を利用した際には、5%相当のポイントが還元されるなど、大盤振る舞いなのですが、座席未指定券ではポイントは一切つきません。
変更のためにみどりの窓口に行く必要がある
座席未指定券は、1回に限り変更することができます。
しかし、その変更作業はみどりの窓口でないとできません。
変更する機会は少ないと思いますが、これは不便ですよね。
座席未指定券に「指定席」付与できます
発車時刻前に券売機で指定可能
なんだか不穏な空気が漂っちゃいましたね。
でも大丈夫。
「座席未指定券買っちゃったんだけど…」
という人でも、座席未指定券には、あとから「指定席」を付けることができます。
もちろん追加料金はかかりませんし、指定席を付ける作業は変更回数にカウントされません。
予定が確定したら、必ず指定席を付けるようにしましょう。
指定席の付け方は簡単で、
- 指定席券売機で操作する
- みどりの窓口で依頼する
いずれでも大丈夫です。
座席未指定券に「指定席」を付けると、指定券が別途発行されて、2枚1組で使うことになります。
こうしておけば、指定された座席はあなただけのもの。
あとから人が来る心配などせず、ゆっくりお過ごしください。
座席未指定券への指定席の付与に関しては、指定席券売機での乗車変更と重なる点がございますので、下記もご参照ください。
車内での座席確保はできない
前項目で説明した指定席付与は「発車時刻前に行う場合」です。
乗車後に車内で座席を確保することはできません。
お間違いのないようにご注意ください。
まとめ
首都圏の全車指定特急列車に対して発売される「座席未指定券」に関して、以下の知見を得ました。
- 満席でも乗れる
- あらかじめ買ってあれば飛び乗りもできる
- 空席があれば席を自由に選べる
- 席の確保ができないのに指定席特急券と同額
- 空席状況により席の移動が必要になる
- 時間帯によっては席を失う
- ポイントがつかない
- 変更のためにみどりの窓口に行く必要がある
デメリットが目立つ座席未指定券ですが、上級者が使いこなせばメリットも活きてきます。
原則として指定席特急券を買うにしても、奥の手として座席未指定券という選択肢もあるのだということを覚えておいたら心強いですね。
JRE POINTは1ポイント1円以上の価値があります
>> こちら
ではまた。
筆者がよく遭遇するケース
東海道新幹線「こだま」で東京駅に到着すると、5分乗り換えで常磐線特急が発車します。