何回も飛行機に乗っていると、エコノミークラスの国際線航空券を購入したのに「いざ空港に行ったらビジネスクラスに無料で変更された」という経験をすることがあります。この現象は「インボラアップ」と呼ばれます。なぜこんなことが起きるのか、起きやすい路線はあるのか、予兆はあるのか、どんな人が選ばれるのか、食事はどうなるのか…複数回遭遇した経験からタイプ別にわかる範囲で解説します。なお、最初からアップグレードを期待するといいことはありません。どうしてもビジネスクラスを利用したいのであれば、最初からビジネスクラスを予約しましょう。
航空機の座席について
国際線の航空機には、主に4種類のグレードがあります。
- ファーストクラス
- ビジネスクラス
- プレミアムエコノミークラス
- エコノミークラス
この記事では、説明の簡略化のためにファーストクラスとプレミアムエコノミークラスは除外し、ビジネスクラスとエコノミークラスの2クラスで主な議論をします。
エコノミークラス
エコノミークラスは、航空機座席の中で最も安い金額で搭乗できるグレードです。
いわゆる普通席ですね。
所狭しと座席が並び、さながら詰め込み仕様。
しかし、座席周りの設備を見直し、少しでも空間を確保しようと工夫をしてくれていて、徐々に快適に過ごせる座席へと変化しています。
機内食をエコノミークラスの座席で粗相なく食べるには”コツ”がいりますが、お味は随分とおいしくなってきました。
私のような人間はエコノミークラスでも十分幸せです。
ビジネスクラス
ビジネスクラスはエコノミークラスの上位に設定される座席です。
かつては”ちょっと座席がいい感じ”だっただけのビジネスクラスですが、今では“横になって寝ていける”ハイグレードなシートに大躍進。
機内食も高級レストランのようなお食事を楽しめます。
夜中におなかがすいたら、ボタン一つで軽食を作っていただけます。
もはやここは機内か?と思ってしまうほど、日常と離れた幸せな時間を過ごすことができます。
これだったらビジネスクラスがいいですよね。
じゃあ、今度の旅行はビジネスクラスで行きましょう!
カチカチ…
カチっ…。
例) 4/1-4/7 HND-HNL (JL)
エコノミー:144,910 円
ビジネス:543,100 円
…。
…エコノミーにします。笑
インボラアップの基礎知識
普通にエコノミー座席を予約する
この記事をどんな方が読んでくださるのか分かりませんが、よほどの事情がない限り、普通の人が海外旅行に行くときはエコノミークラスの利用になるでしょう。
ちょっと狭いかもしれませんが、目的地まで移動するのが飛行機の役目。
横になっていく必要なんてない。
…と強がりながら予約。
当然エコノミークラスの座席で我慢していこうと覚悟を決めて空港に向かうわけですが…
稀に無料でアップグレードされる
稀に、空港で思いがけない提案を受けることがあります。
「〇〇様、本日はお座席の都合上、ビジネスクラスのご利用をお願いしております」
え~!!
いやいや、こちらこそよろしくお願いいたします。
と相成るわけです。
航空会社からの提案ですので、追加料金は一切かかりません。
エコノミークラスで予約しておきながら、ビジネスクラスに乗れる。
こんなオトクなことはないですよね。
でもなぜ??
なぜこんなサービスしてくれるのでしょうか?
アップグレードは「航空会社の都合」
実はこれ、サービスでも何でもありません。
「インボランタリー・アップグレード(インボラアップ)」と呼ばれる、航空会社の都合による座席調整です。
どんな都合かというと…
飛行機にはビジネスクラスとエコノミークラスがありますが、飛行機は単一路線を行ったり来たりするわけではなく、様々な就航地に向けて飛行しています。
その中で、
- ビジネスクラスが大人気な路線(主に長距離)
- エコノミークラスが人気な路線(主に短距離)
というのが当然生まれてきます。
例えば、ヨーロッパやアメリカまでであればビジネスクラスで行きたいですよね。
一方、韓国くらいならエコノミーで十分と考える人が多いでしょう。
このような事情を鑑みて、長距離路線にはビジネスクラスの座席数が多い機体を、短距離路線にはエコノミークラスの座席数が多い機体をあてがうように工夫をします。
しかし、エコノミークラスの座席数が多い機体は小型機であることが多く、乗客数の多い短距離路線には力不足であることも多々あります。
そんな時は、ビジネスクラスの座席数が多い機体を短距離路線にも就航させることになるのですが…
エコノミークラスの予約を意図的に取りすぎる
航空会社にとって、空席のまま飛行機を飛ばすのは死活問題です。
そのような事情がある中で、乗客数の多い短距離路線で問題になるのは
- ビジネスクラスのガラガラ問題
- エコノミークラスの超満員問題
です。
どうしてもお客さんの予約が偏ってしまいます。これは仕方がないですよね。
そんなときに航空会社はどんな対応をするのかというと…
なんと!
一か八か、
エコノミーの座席数以上にエコノミーの予約を一旦受け付けてみる
という賭けに出ます。
で、本当に予約者が全員来てしまうと、エコノミーがあふれてしまいますよね。
そうなったら、またはそうなりそうな予測が前日くらいに出たら、溢れた人(溢れそうな人)をガラガラのビジネスクラス送りにするのです。
そうすることで、追加料金なしでビジネスクラスに乗せたとしても、予約数をセーブして空席のまま飛ばすより、機体全体の収支はプラスになるんです。
繰り返しですが、インボラアップは航空会社のサービスではなく、切実な経営戦略なんです。
インボラアップが発生しやすい路線
ここまでの説明でお分かりいただけると思いますが、インボラアップが発生しやすいのは
- 東アジア路線
- 東南アジア路線
を中心とした短距離路線です。
自分の胸に手を当てて考えてみて、一切の見栄を除外しても
「この程度の路線だったらビジネスクラスになんてわざわざ乗らないよね(笑)」
と思ったら、その路線は該当します。
実際に私や周りの人間がインボラアップを経験したのは、(1)「羽田ー台北」、(2)「羽田ー上海」、(3)「羽田ーシンガポール」の3路線です。
(1)台北の際は、正真正銘のビジネスクラスへのアップグレード、(2)上海の際は、ステイタスによるビジネスクラスのエコノミークラス化、(3)シンガポールは(ちょっと特殊ですが)やむを得ずバンコク経由に振り替えを余儀なくされた際の見返りとして羽田ーバンコク間をアップグレードしてくれた。というケースです。以下の項目で詳しく状況を説明します。
インボラアップのタイプ別解説
正真正銘のビジネスクラスにアップグレード
まずは1つ目。正真正銘のビジネスクラスにアップグレードされるケースです。
このケースは、ビジネスクラスの座席数が少ない機体で適用されました。
つまり、アップグレードされた先のビジネスクラスのエリアに、元々のビジネスクラスの有償予約客もいる、という状況です。
…って説明で分かってもらえますかね。
このパターンは「羽田~台北」で経験しました。
この場合、搭乗券にはビジネスクラスを示す「C」が大きく印字され、受けるサービスもビジネスクラス相当になります。
アップグレードを受けたのは空港のカウンターチェックイン時でしたが、
「前日なのにオンラインチェックインができない」
などの予兆があったことから、早い段階で(1)エコノミーのお客さんが溢れることと、(2)アップグレードする対象者の人選、が行われていたことになります。
人選に関しては完全にブラックボックスなので分かりません。
ただし、あくまで私の感想として、(1)ツアーではなく正規航空券を購入していて、(2)航空会社のステイタスを持っていて、(3)お子様連れではなく、(4)一人でもなく1)、(5)インボラアップしたら喜んでくれそうな人…を積極的に選んでいるような気がします(未確認)。
1)一人客ではなくグループでまとめて移動させることで、航空会社がエコノミーの並び席を確保しやすくなるため、このような記載をしました。当然、世の中には1人利用時にもインボラアップされた方もいらっしゃいます。
座席のみビジネスタイプにアップグレード
続いて2つ目。ビジネスクラスのエコノミー化です。
このケースは、ビジネスクラスが2区画に分かれているタイプの機体で行われました。
ビジネスクラスのうち前方区画は正真正銘のビジネスクラスとしての運用でしたが、後方区画はエコノミークラスとして開放したのです。
…ていう説明で伝わりますでしょうか。
このケースは「羽田~上海」で経験しました。
前項のケースとは異なり、アップグレードされたとしても”正真正銘のエコノミークラス”です。ただ、座席だけがビジネスクラスだということ。
この場合、受けられるサービスはエコノミークラスに準じますので…
ビジネスクラスの座席でエコノミークラスのお食事をいただくことになります。
これはこれで楽しいですよね。
ちなみに、エコノミーのお客さんが全員ビジネスに行けたわけではなく、この時はJALグローバルクラブ会員限定での案内でした。そのほかのお客さんは、プレミアムエコノミーの座席を選択できるようでした。これは私の予想ではなく、カウンターで明確に説明を受けました。
逆に、プレミアムエコノミーを予約していたお客さんは正真正銘のビジネスクラスへのアップグレードを受けられたのかもしれません(未確認)。
振り替えの見返りにアップグレード
最後に特殊なケースをご紹介。
羽田~シンガポール線に搭乗しようと空港に向かったら「お座席をご用意できません」と絶望的なことを伝えられ、
「バンコク経由で向かってください、バンコクまではビジネスクラスをご用意します」
このケースでは、エコノミーの予約を取りすぎてしまい、一方でビジネスクラスも人気のある路線なので、完全に詰んじゃった…という特殊なケースですね。
直行できない代わりにビジネスクラスにしてあげるから勘弁してください、というお詫びのアップグレードです。
これはなかなか経験できないやつですね。
経験したくもないですけど…
まとめ
エコノミークラスの予約でも無料でビジネスクラスにアップグレードされる「インボラアップ」について、以下の知見をまとめました。
- インボラアップはサービスではなく「航空会社の切実な都合」
- ビジネスクラスが余りがちな短距離路線で発生しやすい
- 背景に「エコノミークラスの予約を取りすぎる」現象あり
- 人選は無作為ではなく、ステイタスなどを鑑みている
ではまた。