常磐線は東北新幹線のバイパス路線
JR常磐線は、上野から仙台を太平洋側を通って結ぶ路線です。
東日本大震災の被害を受けて9年間も不通だった区間がありますが、2020年に復活。その際に、上野(品川)から仙台までを10両編成で直通する特急ダイヤが発表され、度肝を抜かれたことは一生忘れないでしょう。
そんなJR常磐線と、同路線を走る特急ひたちは、東北新幹線のバイパス路線としても活躍しています。
新幹線の指定席料金が跳ね上がる最繁忙期にも同じ特急料金であるどころか、お盆のド真ん中であってもトク35という割引きっぷが設定されていて、ゆっくりでもいいから高い新幹線を使いたくないという層には一定の需要があります。
しかし、それ以上に活躍する日があります。
しかもそれは突然にやってきます。
東北新幹線は大胆に止まる
首都圏と東北地方を結ぶ東北新幹線は、1日4万人以上が利用する大動脈なわけですが、「動くものは止まることもある」とはよく言ったもので、東北新幹線にも当てはまります。
しかも、東北新幹線は「雪の影響でブレーキが効かずに猛スピードでポイントを通過して止まる」とか「走行中のこまちが突然はやぶさを切り離してしまう」など、とにかく派手にやらかして止まることがあります。
そうなると復旧には時間がかかり、東北方面への交通は寸断されます。
派手にやらかすJR東日本に対しては、利用者としても株主としても言いたいことは山ほどありますが、しかしそのバックアップにおいては優れていると評価できる点があります。
その一つが「JR常磐線を使ってお客さんを運ぶ」という代替手段に出るという点です。
仙台行きの特急ひたちに利用が集中
冒頭でも話をしたように、特急ひたちは上野(品川)ー仙台を結ぶJR常磐線経由の特急列車です。
しかし、仙台に直通するのは3本だけ。
残りはすべて「いわき」行きです。
当然、東北新幹線が停止したとなれば仙台行きのひたちの腕の見せ所となりますが、3本だけでは圧倒的に足りません。
新幹線の復旧に時間がかかると分かるやいなや、光の速さで座席が埋まっていきます。
いわき行き特急ひたちを仙台へ延長運転
しかし、それを上回るスピードでJR東日本は動きます。
いわき行きの特急ひたちの一部列車を仙台へ延長運転すると決めるのです。
それも概ね1時間以内に。
延長運転するためには、車両繰りの他に、列車のダイヤの調整が必要です。
これらの調整をなぜ瞬時にできるのか、考えてみましょう。
仙台延長運転を即決できる理由
車両運用に余裕がある
特急ひたちに使われる車両はE657系と呼ばれています。
E657系は、全部で19本存在します。
一方、E657系を使用した列車は、「特急ひたち」と「特急ときわ」のみであり、運用数は約15個と言われています。
差し引きで4本余剰であるとも言えます。
残念ながら1編成は踏切事故により運用から外れていますが、それでも3編成は残っています。
普段は余剰として車庫に入れておき、臨時列車を走らせるときのほか、車両故障が発生したとき、ダイヤが乱れたときなどに利用されます。
仙台延長運転の際も、タイミングを見計らいながら勝田にある車庫から引っ張り出せば、増発すること自体は可能なのです。
全線で車両が統一されている
常磐線を走る特急列車は、すべてE657系という車両で統一されています。
そのため、既存の列車をそのまま仙台まで送り込むことができるのです。
…と、当たり前のことを書いていますが、実はこれには裏話があります。
2011年頃、JR東日本は「常磐線の特急列車をいわきを境に分断する」ことを発表。E657系はいわき以南のみで運用し、いわき以北はE653系という別の列車をあてがう計画になっていて、既に列車愛称の募集まで進めていました。
しかし、直後の東日本大震災の発生で白紙になり、そもそも列車自体を運行できないことになりました。
9年の年月をかけて運転を再開したとき、「特急列車を東京から直通させる」ことを発表。
あまり類を見ない前言撤回により実現しているのです。
実は既に空のダイヤが設定されている
空のダイヤ
車両に余裕があっても、普通列車の合間を縫いながら単線の線路を北上するダイヤの調整は至難の業とも言えます。
…が、しかしそれは既に済んでいます。
確かに仙台行きの特急ひたちは1日3本しかありませんが、その他に臨時列車を運転するための「空のダイヤ」が組まれているのです。
通常時は「空のダイヤ」の上を列車が走ることはありませんが、ダイヤを組む際には空のダイヤにも列車が走るものと扱って他の列車のダイヤを組んでいますから、路線全体のダイヤを大きく乱すことなく臨時列車を突発的に走らせるのに好都合なのです。
常磐線のケース
「空のダイヤ」は多くの路線で設定されていて、主に多客時に増発することを想定しておりますが、常磐線のいわき以北の区間では、専ら「東北新幹線トラブル時のバイパス的な利用」に使われているようです。
毎度定番になっているのがひたち9号とひたち26号です。ひたち9号は、定期のひたち3号の3時間後、ひたち13号の2時間前に走る下り方面の特急で、まさに空白の時間帯を埋めるような役割を果たしています。ひたち26号は、かつて仙台始発で運転されていた上り方面のダイヤで、これを復活する形です。夕方の時間帯に運転されるので重宝されます。
なお、2024年のダイヤ改正までの間は、ひたち22号が仙台延長運転の定番でした。いまでは仙台始発の特急列車として定期運行されています。
いわきー仙台間は「快速」にする
近年のJR東日本では、特急型車両を利用した臨時列車は「特急」として運行することを徹底しています。かつては「快速」だった列車であっても、近年は「特急」として運行しています。言うまでもなくこれは「特急料金収入を得るため」であります。
この流れで言えば、特急ひたちの仙台延長運転時も全区間を特急として運転したいところでしょうが、これには壁があります。
既に発売済みの特急券がある「品川ーいわき間」の特急列車を運休扱いにし、新たに「品川ー仙台」の特急列車を設定するのは無理があります。
当日になって、新たに指定席特急券の枠を新たに設定し、顧客に発売するにはシステム上のハードルが高すぎるのです。
そこで、特急として運転するのは当初の計画通り「いわきまで」とし、延長運転区間は「全車指定席であること」と「特急料金を収受すること」を放棄し、「快速」として運転することで、この問題を回避します。
乗客が用意すべき乗車券類について
乗車券類とは、乗車券と特急券のことをいいます。
乗車券は迂回乗車の対象
大都市近郊区間内のケースなどを除き、鉄道を利用するときには定められたルート通りに乗車しなければなりません。例えば、東北本線(新幹線)経由の乗車券を利用して常磐線を北上することはできません。
しかし、東北新幹線が運行トラブルに見舞われ、常磐線で東京ー仙台間を移動することになった場合、多くのケースで「乗車券は迂回乗車の対象」となります。
迂回乗車の対象となれば、乗車券を乗車変更することなく、そのまま利用できることになります(※経路上での途中下車には制約があります)。
なお、迂回乗車取り扱いの判断に関しては駅で案内がありますので、勝手に開始しないように。
特急券は買い直し
一方、特急券は迂回乗車の対象外です。
東北新幹線の特急券で常磐線の特急列車に乗車することはできません。
この場合、特急券は実際に乗車する列車の区間に合わせて、改めて準備する必要があります。
東北新幹線が運行トラブルに見舞われ、常磐線で東京ー仙台間を移動することになった場合は、東京ー仙台間の常磐線特急ひたち号の特急券を購入してください。
いわき以北を臨時で延長運転することになった列車を利用する場合は、東京ーいわき間の常磐線特急ひたち号の特急券があれば、そのまま乗車できます。
その他の情報
東北新幹線と常磐線が両方ともダメージを受けた地震の際の延長運転に関する記事は下記をご覧ください。常磐線は強引とも言える方法でダイヤを組み直していました。
迂回乗車時の特急券の取り扱いについては、「しょっちゅう止まる羽越本線」などを例に下記の記事で解説しています。
震災を機に前言撤回した常磐線特急に関しては、下記の記事で触れています。
ではまた。